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2004/03/31/Wed.
▲晴れのちくもり。
「週刊文春」発売禁止命令の取り消し決定 東京高裁(asahi.com)表現の自由に重きをおく判断なり。しかし、田中家は最高裁へ抗告。もし、事前に内容を知ることができる人間が「差し止め」を裁判所に申し出、それが受理されるなら、それは一部の特権的な人間である可能性が高い。とすれば、マスコミは商売だから、リスクを回避し、叩きやすい奴を叩くという構造に陥るのではないか? 実際、ここ数年、濡れた犬を叩くような報道が目立っている。こんなところにも「勝ち組」と「負け組」とやらで表現される階級化の進行が現れている。文春の大仰なものいいにも、田中家側の被害者ぶりにも、それぞれうさんくささが感じられてならない。
▲サッカーのワールドカップアジア予選。日本辛勝。見ていてはがゆいことこのうえなかった。中田の怒りもごもっとも。一番悔しいのは選手たちだろうが、やっぱり、選手間のコミュニケーションに問題があるのだろうか。そう感じさせる内容の試合だった。


2004/03/30/Tue.
▲くもり。
▲先週末からとりかかっていた仕事が完了。一息つく。
『新ニューヨーク恋物語』なるドラマを見るともなしに見てしまう。アル・パチーノになったつもりの田村正和がサムい。オリジナルは見ていないので懐かしさはなかったが、時折挟み込まれるオリジナルの映像の古くささがなんともいえない。15年たつと、こんなに変わるのか……という。脚本は鎌田敏夫ではなく、大石静。ヒロインは竹内結子。どうにも中途半端な印象。公式サイトの田村正和インタビューを読んでいて、『過ぎし日のセレナーデ』というトンデモドラマがあったことを思いだす。なんというか、すごいドラマ(いろんな意味で)だったような覚えがあるのだが、記憶が封印されているのか思い出せない。また見たくなった。ドラマはバカバカしければバカバカしいほどいいんだと思う。


2004/03/29/Mon.
▲くもり。
▲六本木ヒルズの回転ドア事故について。なんと、過去に32件の事故があったと判明。ドアのメーカー三和シャッターとオーナーの森ビル(とヒルズの管理会社丸誠)の言い分が食い違う。両社長は通夜、葬儀への参列をそれぞれ遺族から拒否されている。当然だろう。罪のなすりつけあいにあきれ果てる。一流(とされている)企業がこのていたらくでは、この国のレベルも推し量れようというもの。嫌な話だ。


2004/03/28/Sun.
▲晴れ。
▲昨日サボった分の仕事をしようと思ったのだが、天気のいい日曜日に一日中家にいる気にはなれず、「明日考えよう」ということに。目白庭園などの公園をつなぐように歩いて西池袋に出る。ありふれた春の日曜日。


2004/03/27/Sat.
▲晴れ。
▲三多摩ロモ会花見。今週は天気が悪かったので心配していたが、見事に晴れた。桜は7分咲きといったところか。人出は多かった。
▲台東区谷中墓地の小公園で花見酒。墓と桜と酒という取り合わせ。幹事をつとめるキッチン女史の実家は荒川区××商店街の揚げ物屋で、自慢のコロッケ、かつ、ハムかつなどを持ってきてくれた。そのほか、参加者各人が1人1品持ち寄るという趣向。しかし、例年に較べ、酒もつまみもなかなか減らない。みんな、年を取ったんだなあ、と思う。この会はもう5年くらいやっていて、二十代だった連中もみんな三十代になった。こんなところにも高齢化が……。
キッチン女史の名幹事ぶりに感謝。思えば、彼女と知り合ったのは97年の初冬、ブダペストの安宿でだった。お互い、得体の知れないバックパッカーだったのだが、ぼくがライカIIIf、彼女がオリンパスペンFTを持っていたことから、意気投合した。のちに、ぼくが編集した『使うハーフサイズカメラ(飯田鉄著 双葉社)にハーフサイズカメラの使い手として登場してもらったこともあった。旅先で知り合った人とはなかなかその後つきあいが続かないものだが、どういうわけか現在まで続いているのはカメラの神様の思し召しか。
▲谷中では、夜からは別の人たちが「予約」しているという場所取りの妙があり、まさに花見のメッカならではの秩序がある。日暮里駅近くの喫茶ニュートーキョーでお茶して帰ったのだが、客筋もお年寄りが多く、落ち着いているのも良かった。


2004/03/26/Fri.
▲晴れ。
▲堀江敏幸『雪沼とその周辺』(新潮社)読了。今年のベストワンかも(おいおいまだ3月だよ)と思う。堀江敏幸の本はどれも好きだが、フランス人が出てきて、フランスが舞台だとやはり敷居が高い。日本を舞台にすると、一転、下町というよりは場末の王子(在住の人、決して悪い意味じゃないです)で『いつか王子駅で』(新潮社)となる。よく読めば、堀江敏幸のフランスものも、決してアカデミックな「おフランスもの」などではなく、言葉とレイシズムの壁を越えられずうろうろしている留学生の姿が描かれていたり、フランス社会に決して溶けこめない中国人ゲットーの人々が登場する。堀江敏幸がフランスものの短篇に長々と紹介する小説も多くはマイナー作家の小品であったりする。その目線の低さは日本で暮らしている読者に届きにくいところがあるのかもしれないが、少なくとも、この『雪沼とその周辺』と『いつか王子駅で』は騙されたと思って読んで欲しい。
▲小さいがプロにも認められたスキー場がある雪沼と、尾名川流域に暮らす人々の物語。おそらく、この場所は架空の場所だろうが、そこはこの本を読んだ読者にとっては、たしかにこの世に存在する場所に思えてくる。そして、そこで暮らす人々のささやかな暮らしの「その後」を時折思い出したくなるだろう。なぜか涙が流れて仕方がなかった。とくに悲しい物語ばかりというわけではないが、物語全体が薄暮の光に包まれているようだろうか。それとも、こういうお話に心を打たれるような立派な「中年」になったという証だろうか。いずれにせよ、強力にお薦めしておきます。
▲沼袋Bar&Galleryちめんかのやで中里和人写真展「表層聖像」(〜27日)を見る。『小屋の肖像』(メディア・ファクトリー)『逢魔が時』(中里和人写真、中野純文 ピエ・ブックス)で知られる写真家、中里和人さんの今回の個展は久々にモノクローム。処女作の『湾岸原野』(六興出版 1991年)以来では? 「荒川、江戸川、東京湾の水内際で拾った、どこか聖像(イコン)のような 変容漂着景」(作品紹介より)をグレートーンにこだわったプリントで繊細に表現している。
▲モノクロは「白黒」「黒白」と言われるし、事実、黒と白とで表現された映像だが、黒と白との間には豊かなグレーゾーンがある。人間の世界では「曖昧」の代名詞のようなグレーゾーンにたゆたう漂流物の姿はどこか神々しい。なるほど「聖像(イコン)」と呼びたくなる写真家の気持ちもわかる。会場内には中里さん得意の簡易「小屋」がしつらえられ、くぐり戸から入ると15分ほどのビデオ作品「MIZUGIWA」を見ることができる。ビデオ作品はおそらくこの写真家にとって初めての試みだと思う。
▲三人の写真家(渡部さとるさん大池直人さん當麻妙さん)と江古田で飲む。教えられることが多く、得した気分で家路につく。


2004/03/25/Thu.
▲くもりのち小雨。
三菱ふそう社長が遺族に謝罪 事故から2年2カ月 (asahi.com)
▲事故があってから2年たって「謝罪」。三菱といえば日本を代表するビッグブランド。企業の採用PRをやっていた時に、そのブランド力を強さ、社員のプライドの高さを知り、ちょっと驚いた覚えがある。しかし、この対応の鈍さを見ていると、貧すれば鈍すのたとえ通り、三菱ブランドも地に墜ちたのか。外人社長が登場するニュース映像に、日本企業の「敗北」を漠と感じた。
▲思い立って、本棚から鈴木清(1943-2000)の二冊の写真集『愚者の船』(IPC)『修羅の圏』(DEKU)を引っぱり出し、精読する。鈴木清は生涯出した写真集のほとんどが自費出版。編集、デザインまで兼ねた写真家だった。写真集という形態への思い入れも並々ならぬものがあり、写真と言葉の綱引きに緊張感がある。鈴木清のたくらみを堪能。自身「アルバムの延長」(『愚者の船』)と書いているが、こんなアルバムだったら、もっと見たい。
▲昨日、『太陽にほえる!』出演者の又野誠治(ブルース刑事)自殺か? という報が入り、自殺の現場となった居酒屋「Aサイン」前で、酔いつぶれて寝ている又野誠治の思い出を共有している西荻在住のI氏にメールを送っておいた。丸一日たって届いた返信には下川辰平(長さん)の訃報が書かれていた。30代〜40代の男が少年時代に親しんだ芸能人たちの訃報が相次ぎ、感慨に耽る。合掌。
▲テレビドラマ『白い巨塔 特別編』再編集ものとなめていたら、意外としっかり、登場人物たちの「その後」を撮り足していて感心。主役は柳原先生(伊藤英明)。雰囲気的にはマンガ『ブラックジャックによろしく』(講談社モーニングKC)みたいだったけど。


2004/03/24/Wed.
▲くもりのち小雨。
大丸東京店「藤原新也の聖地 旅と言葉の全記録」展(〜30日)を見に行く。
▲藤原新也が少年時代をすごした門司港から、インド、イスタンブール、アジアの国々、そしてアメリカ。その幕間には『東京漂流』の代表的な1枚「金属バット殺人が起きた家」が、アメリカ郊外の幸福そのものといった無菌状態の住宅地の風景が対比される。まさに興奮。世界各地を経巡り写真を撮り、言葉を残してきた作家の遍歴が、パノラミックに一望できるさまは、藤原新也「ワールド」に迷い込んだような錯覚を覚えるほど。歩いてきた場所が、そのまま人生と仕事に分かちがたく結びついていることに感動する。まさしく作家なり。東京展終了後は、京都大丸で5月開催予定。
▲大塚英志『「おたく」の精神史』(講談社現代新書)をやっと読了。情報量が多い本なので、一気読みするには不向き。なにしろ、「オタク」(国際的に認められた日本独自のカルチャー)ではなく「おたく」(名付け親は中森明夫だと本書にある。どちらかというと、侮蔑的に社会性のないマニアを指す言葉)の「精神史」である。ロリコンマンガやアイドルの自死、プロレス団体の分裂、出版界の裏事情などが、自身の体験とからめて独得の脈絡を持って描かれている。副題に「一九八〇年代論」とある。大塚英志独特の飛躍のある直感的な発想がおもしろかった。個人史が「正直に」書かれているところもなんか好きだ。
▲大塚英志の『少女民俗学』(カッパサイエンス 1989年 のちに光文社文庫 現在ともに絶版or品切れ)を本屋で見つけ、なぜか、こういう本を待っていたのだという思いで読んだことを思い出す。その内容も、『「おたく」の精神史』と同じ感触を持っていて、眉にツバつけながら読んだっけ。『少女民俗学』の続編にあたる荷宮和子の『少女民俗学 パート2 クマの時代』(カッパサイエンス 1993年 絶版or品切れ)がさらに「勢い」のある面白い本だったことを懐かしく思い出した。


2004/03/23/Tue.
▲雨のちくもり。
▲阿佐ヶ谷にある病院までY夫妻の赤ちゃんを見に行く。生まれたばかりの赤ちゃんに特有の可愛らしさというものはたしかにあって、生まれたてのフレッシュ感は(あたりまえだが)生涯ただ一度だけのもの。眺めているだけで多幸感を感じる。奥さんのほうの「すっきり感」てのも、また独得の輝きがある。元気そうで良かった。
面会時間が終わり、Yくんとみねらるやなるデリと定食の店で祝杯。
▲帰りぎわ、イクヤがむずかりはじめ、バギーに乗せても大声で泣くばかり。どうやら「大」のほうらしいということで、Y氏宅に寄り、おむつがえをさせてもらう。イクヤの激しい泣きっぷりにY氏宅の猫(フク)がおびえ、部屋の隅に縮こまっていた。ちょっと笑った。ちょうど今のイクの発達段階はフクくらい、という話をYくんから聞いていたので、とりあえず、泣き声で対決に勝利。フクは本当にビビったらしく、Yくんに抱っこされてからも、後ろ足が震えていた。


2004/03/22/Mon.
▲雨。
▲家族で北浦和に行く。とんかつとかかば焼きとか鍋とかさしみとか、脈絡のないごちそうにお腹一杯。夜は手打ちうどんだった。
▲テレビドラマ『プライド』の最終回にちょうど間に合うように帰ってきてしまった。『噂の眞相』で宝泉薫が野島伸司とキムタクの「オレオレドラマ」と喝破していたが、最後まで終始一貫したオレオレぶりでいっそすがすがしかった。これくらい中味が空っぽなほうが今の世相には合っているのかも。


2004/03/21/Sun.
▲晴れ。
▲朝帰り。昼近くまで寝るが、イクヤが顔の上に乗ってくるので眠っていられない。はねのけると、床に置いてあるIMacにつかまり立ちして、ドンドコドンとIMacを叩いてうるさいことこの上ない。
▲眠い目をこすりながらPCを立ち上げると、友人のY夫妻から赤ちゃんが産まれたというメールが入っている。男の子。おめでたい。タイムスタンプを見ると昨日のことらしい。いかりや長介の生まれ変わりかなも、と思う(のちに夫妻に出生時間を確認したところ、昨日の午前中とのことなので、いかりや生まれ変わり説は却下)。
▲野方までバギーを押して歩く。行きがけに、先日うちに遊びに来てくれた赤ちゃん&ママさんの1組とばったり会う。話しかけてくれたのに、ろくに受け答えもできなかった。俺には公園デビューはできそうにもない……。
▲先日、大掃除をした際に田中長徳さんの本が大量に発見されたので、懐かしくなって読みはじめた。なかに『温故知新のコンタックス』(1998年 アルファベータ)という本があり、コンタックスG1発売当時の興奮が生々しく描かれている。当時まだライカはM6までで、新製品が登場しなくなって久しかった。そこに、往年の名機「コンタックス」のレンジファインダー機(AFだけど)が登場したということで、カメラファンは騒然としたのだろう(ぼくは、当時はカメラにはさしたる興味はなかったので直接には知らない)。ぼくが持っている『温故知新のコンタックス』はG2の登場後に刊行された新版だが、G1の登場の衝撃に較べると、G2は機能的には優れているけれど、影が薄い。
▲というわけで、今日はうちにあったコンタックスG1(本当の所有者ははカミさん)に35ミリプラナーをつけて外へ出た。久々に使ってみたら、イメージよりもずっと使いづらく感じた。AFが遅いから、広角レンズをつけて距離目測でスナップせよ、というのが「裏ザワ」だったはずだが、にしてもシャッタータイムラグがある。感覚的にはほとんどデジカメである。しかし、シャッター音の「鳴き声」がなんとなく気に入ってもいて、休日の散歩の友としては悪くないかもと思い直した。


2004/03/20/Sat.
▲晴れ。
▲カズちゃんが遊びに来る。
村松恒平さんの新刊『文章王 〈プロ編集者による〉文章上達〈秘伝〉スクール 2』(メタ・ブレーン)出版記念パーティー。サラリーマン時代の同僚だったK野くん、『悲しいとき』(いつもここから著 扶桑社)などのブックデザインを手がけているデザイナーの穴田淳子女史(a mole design Room)、川上修さん(CYRUS)と久々に会う。そのほか、編集者の榎本統太さんに久々に会い、榎本さんが手がけた『マイコン少年さわやか漂流記』(クーロン黒沢著 ソシム)がすばらしい本だったと伝えることができてうれしかった。二次会からは写真家のHARUKIさん(先日、横木安良夫さんのWEB日記を読んでいたら、突然、彼の名前が出てきて驚いた)も参加。二次会は居酒屋、三次会はカラオケ……朝まで騒いだ。
▲カラオケボックスでいかりや長介の死を知らされる。昨年のテレビドラマ『あなたの隣に誰かいる』の後半で声が出ずらくなっていたので、相当、病気が悪いのではないかと思っていたので、死そのものに驚きはなかった。むしろ、いかりや長介の死が多くのドリフ世代に与えた衝撃のほうに驚いた(この日記を書いている3月26日現在でもテレビ、ネットにいかりや長介の死を悼む声が数多く上がっている)。
▲たしかにぼく(1968年生まれ)も子供の頃、欠かさずに「全員集合」を見ていた。しかし、こと笑いに関しては、ドリフを打ち破った「ひょうきん族」のほうが印象が強く、ドリフはどちらかというとダサいものだった。のちに、バンコクの日本料理店で字幕なしのドリフの番組がタイ人にウケていたのを見て、ドリフの笑いの国際性(?)に感心することはあったが、加藤茶、志村けんなどがドリフ解散後に始めたテレビ番組に興味は持てなかった。ゆえに、いかりやの死の反響で、ドリフがいかに多くの人々に愛されていたかを思い知った次第。
▲ぼく自身は、ドリフ時代のいかりや長介よりも、優れた喜劇役者がペーソス溢れる優れた老優になる一例として、いかりや長介の活躍に注目していた。『あなたの隣に誰かいる』など、マンガじみた設定のドラマの中で、いかりや1人が人生の厚みを感じさせるような存在感のある好演ぶりだった。まだまだこれから、惜しい、と思う。合掌。


2004/03/19/Fri.
▲晴れ。
▲新宿。潮田登久子写真展「Book Mart 本の景色」(Contemporary Photo Gallery 27Photographers 29Exhibitions〜3月20日)を見に行く。古本市と古書店に取材したモノクロ写真。正方形フォーマットの写真はブロニカか。展示された作品点数は少な目ながら、実に丁寧な仕事で、足を運んでよかったと思った。本をめぐる人々の姿が「よく知っている」ように思えるのは、ぼくも古書展をのぞくのが好きだからだろう。この展覧会は27人の写真家が連続で写真展を開くというコンセプトの展覧会らしい(らしい、というのはどこにも説明がないからだけど)。
▲吉祥寺。オオヤマさんと飲む。群馬の話とか日本映画の話とか。本来の目的はオオヤマさんのうちにある、使わなくなった赤ちゃん用のイスをもらうことだった。バギーでもイスでも、洋服でもおもちゃでも、いろいろな方々からお下がりや新品をいただけるので、本当に感謝している。
▲最近のイクヤはというと、なぜかお座りはいまだできないのに、匍匐前進のスピードはアップし、部屋が狭いせいでつかまり立ちして騒ぐようになった。そこら中のものをたたいて、なめて、よだれだらけにする。立つのはいいが、自分で座れずに、飽きた頃に親を大声で呼ぶ。キッチンとカミさんの仕事場に仕切を作り、部屋中でもっとも広いスペースが彼の遊び場である。ぼくら夫婦は、イクヤの下僕と化して、こちらが住まわせていただいているという状況。で、それがけっこう楽しいのだから、不思議である。


2004/03/18/Thu.
▲晴れ。
▲昨日に引き続いて掃除。なんとかお母さんと赤ちゃんたちが来る時間に間に合う。さすがに彼女たちが来たら仕事にはなるまいと思い、部屋を出ようとしたところで、ばったり彼らに会う。そのド迫力にたじたじ。女5人いるだけで十分迫力があるのに、赤ちゃん連れだとそのパワーが2倍以上になる。恐ろしや。
▲矢沢あい『NANA』第10巻(集英社りぼんマスコットコミックス クッキー)を読む。同じ日に上京してきた二人の対照的な「ナナ」が繰り広げるドラマを描く人気少女マンガの最新刊。。ナナとレンのスキャンダルがテレビ・雑誌をにぎわせ、ブラストのデビューが決まるが……。ドラマとしては小休止の感があるが、嵐の前の静けさか。
▲矢沢あい『下弦の月』全3巻(集英社りぼんマスコットコミックス)読了。こちらはファンタジックなゴースト・ストーリー。女子高生・美月はアダムという外人のストリートミュージシャンに恋をする。日本を去るという彼との待ち合わせに走る美月は、元カレに呼び止められ、振り向いた瞬間、交通事故に会う。めざめた時には、アダムとすごした洋館で一人、記憶をなくしていた。館に迷い込んできた小学生の蛍はアダムを探す美月を「イヴ」と呼び、力になってあげたいと思う。しかし、クラスメイトたちにはイヴの姿は見えなかった。しかもイヴは幽霊ではなく、イヴとそっくりな美月は意識不明のまま入院中だった。蛍たちは、イヴを美月の身体に戻そうとするが、イヴには美月とは別の記憶が蘇ってきて……。意外と古風というか、古くさいともいえる物語だが、何しろよく練られている。3巻くらいのマンガって、ストーリーがしっかりしていないと悲惨なことになるが、これはよくできている。巧いなあ、と感心しきり。『キル・ビル』の栗山千明が主演で映画化されるとか。
▲サッカー、U-23オリンピック予選。UAE相手に3対0で快勝。アテネへの道が開けた。
▲『白い巨塔』最終回。涙なくしては見られない感動の最終回。尻上がりに調子が出たという印象。現代的な『白い巨塔』に仕立て直すことに成功した。しかし……、と思ってしまうのは、旧作があまりにも見事だという印象があるからだ。僕たちの好きな『白い巨塔』に掲載されている、旧作のプロデュース・演出を手がけた小林俊一のインタビュー記事に激しく同意。もう一回旧作を見直したい。


2004/03/17/Wed.
▲晴れ。
▲明日、お母さんと赤ちゃんたち(4組)がやってくるというので、朝から掃除。
▲『砂の器』最終回1個手前。今一つ盛り上がらず。ドラマの骨格が崩れてきたというか、やっぱり、映画のモティーフだった差別問題(ドラマでは違う「差別」が登場する)が決まらない。日本に差別がなくなったのではなくて、差別をテレビでは描けない(描かない)からだ。肝心のところで腰砕けになった感があり、残念。
▲週刊文春出版差し止め問題。言論の自由がプライバシーに負ける。そういう時代だ。大義なき時代は個人が主役の時代になる。昔はひとくくりにできた「大衆」が個々に人権を持った「市民」になれば、プライバシーを守ろうとする側に共感が寄せられるのはいたしかたない。一般人にとっては、国会議員の家族の私生活への興味よりも、マスコミへの不信感のほうが大きいのではないか。プライバシーを暴くことによって「撃つ」ものを明快にしなければ、読者もその記事の意味を納得しない。田中真紀子の家族のゴシップよりも、そのほかに暴くべきもの、撃つべきものがあるのではないか? というシラけた見方をするのが一般人だろう。
▲個人的には出版差し止めは「否」であるべきだし、プライバシーの侵害と騒ぐ人たちのほうが嫌いだ。ただ、そういう考え方は今の世の中にはまかり通らない、少数派の意見だ。いずれゴシップ記事はマスコミから姿を消す。ゲリラ的なメディアは残るかも知れないが、ゴシップの主戦場はインターネットに移行する。それも時代の流れだ。


2004/03/16/Tue.
▲晴れ。
▲1日遅れの確定申告を出しに行ったついでに、歌舞伎町で映画を見る。
▲見たのは、ジョン・ウー監督の最新作『ペイチェック』。企業秘密を守るために記憶を消すことを了承した男が直面する危機を描いたサスペンス。そこそも楽しめた。
▲白い鳩、拳銃をつきつけあう男といった、おなじみのジョン・ウー節が全開。ワンパターン、などといってはいけない。香港時代からのファンを意識したファンサービスである。プロデューサー主義で、作家性がないがしろにされがちなハリウッドへのある種の自己主張かもしれない。
▲原作はフィリップ・K・ディック。ストーリーはSFだが、『フェイス/オフ』同様、SF的な設定は物語を機能させる方便に過ぎず、ジョン・ウーの関心は別の場所にある。原作のファンが見たら目を剥くのかも知れないが、ファンにとっては些事に過ぎない。香港出身の「外様」監督であるジョン・ウーにとっては、現実のアメリカ社会を舞台にするよりも想像の羽を伸ばせるのではないだろうか。主人公の記憶を消去するシーンにもオリエンタルな演出を施すなど、アジア系映画人としてのこだわりも感じさせる。香港映画時代からのジョン・ウーファンが彼を見切れないのは、こうしたサービス精神ゆえと実感。
▲ベン・アフレックの二枚目ぶりはちょっとキモかった。ユマ・サーマンは『キル・ビル』の役柄を引きずっているのか、化粧っけがなく、目がらんらんと光るさまは迫力を通り越して何やら恐ろしいものを感じるほど。いつ得意の回し蹴りを披露してくれるのかと期待外れを承知で待っていたら、わずか1シーンだけだが、それらしいシーンがあってうれしかった。映画を見終わって帰り際、サラリーマンの中年男性と若手社員という二人組が前を歩いていた。年かさのほうが「最近の映画はコンピュータが出てくるのが多いな」と若手社員に話しかけていたことが印象深い。そんな人でもたっぷりと楽しめるのがジョン・ウーの映画だ。


2004/03/15/Mon.
▲晴れ。
▲確定申告の締め切り日。新宿税務署に確定申告書類を提出に行くも、医療費控除(昨年、赤ん坊が生まれたのでけっこうな金額になった)で勘違いがあり、再提出に。
▲夕飯は、新大久保の「紅鶴」で。以前も台湾料理店だったが、リニューアルして店名も変わった。茶藝館スタイルの台湾料理店なのだが、内装費をケチったのか、演出しきれていないのが残念。お茶の種類はそれなりに揃っているし、料理の味も良かっただけに惜しい。お客さんの入りはまあまあで、中国人ホステスと日本人客が鍋をつつく光景など。


2004/03/14/Sun.
▲晴れ。
▲確定申告で1日暮れる。今年はHPのおかげで計算自体は簡単だが、領収書を発掘したりなど、つまらないことで時間がかかった。
▲Y夫妻来宅。奥さん手製のマーマレードをいただく。美味なり。
▲小林泰三『ΑΩ』(角川ホラー文庫)読了。ウルトラマン世代必読のハードSF。ぼくも子供時代にウルトラシリーズに夢中になったくちだが、子供の頃に触れたウルトラシリーズが本格SFになるとこうだ! という長編小説。大人になってからSFは滅多に読まなくなってしまったが、面白く読んだ。小説の前半は延々と地球外生物の生態や世界観が描かれるのだが、理解不能な用語が頻出するわりに、するする読める。そのへんは、この作者の文章の巧みさ、世界観の設定の確かさなのだと思う。物語の舞台が地球に移ってからはグロテスクな描写が続くが、そのあたりは永井豪の全盛期のSFマンガ(『デビルマン』とか『バイオレンスジャック』とかを思い出したりもした。ストーリーにはもうちょっと情緒的な盛り上がりが欲しいと思ったが、それは個人的なないものねだりで、おそらくこの作者の作風なんだろう。人間嫌い、というか、人類を突き放して見ているのかも知れない。それもまたSFマインド、というやつかもしんない。


2004/03/13/Sat.
▲晴れ。
▲さる撮影会に参加。JR青梅線(初めて乗った)御嶽駅で下車して山道を歩き、モノレールに乗り、御嶽神社を参拝。川まで降りて、沢井まで歩き梅を愛で、青梅まで再び電車に乗った。青梅は映画の看板をあちこちに掛けたギャラリータウンの様相を呈していて、ちょっと変わった商店街になっていた。夜は繭蔵という、文字通り、蔵を改造したダイニングバーで打ち上げ。
▲自然を撮る趣味が皆目ないのでどうなることかと思いつつ参加したのだが、そもそもいい写真を撮ろうと思うこと自体が笑止千万。天気はいいし、散歩にちょうどいい気候だったので楽しく歩いた。ライカM2とズマロン35ミリF3.5という、散歩カメラのレギュラーセットと、デジカメのオリンパスキャメディアC5050を持っていく。うちに帰ってデジカメの画像をPCで確認したら、面白い写真が一枚もなくてショック。撮影会なので、講評会に出さなければならないということに今さら気づく(汗)。


2004/03/12/Fri.
▲晴れ。
▲鈴木布美子さんプロデュースによる集合住宅「桜新町住宅」(仮)内覧会。アート、建築に造詣が深い鈴木さんらしく、斬新なイメージの集合住宅だった。カッコイイ!(お家賃的に、ぼくにはとても住めませんけど……)
▲岡本さんと渋谷の隠れ家的カフェ(ようするに、はやっていない店なんだが、味わいがある)でまったりと四方山話。
▲ヤギさんとトーマシライくん来宅。よく飲み、よく話した。


2004/03/11/Thu.
▲晴れ。
▲天童荒太『遭難者の夢 家族狩り(二)』(新潮文庫)読了。毎月1巻ずつ刊行されるシリーズ第2作。早く次の巻が読みたい。ぜんぶ出てからまとめて読んだほうがいいのかもしれないが、せっかく「あとがき」もあるのだから、と1巻ずつ読んでいる。あとがきのついたシリーズものというと『グイン・サーガ』などの栗本薫の小説を楽しみに読んでいたことを思い出す。中学生の頃の話だ。
▲『エースをねらえ!』最終回。ついに最後まで見てしまった。『ガラスの仮面』は途中で飽きて見なかったのだが、こちらは「スポ根」のアナクロニズムが効いたのか。昔のドラマを見ているような錯覚に陥ることも。そもそも原作がよくできているということか。
▲『白い巨塔』はあと1回。財前、ガンに倒れる。東教授が財前の手術を執刀するというあたりが見せ場。いよいよドラマのテンションが上がってきた。


2004/03/10/Wed.
▲晴れ。
▲アマゾンで購入した写真集『Anthony Goicolea』(Twin Palms Pub)が届く。ニューヨーク在住の、キューバ出身のアーティストAnthony Goicoleaの写真集。CGを駆使してクローン的に増殖した少年たちが、ギムナジウム風の森の寄宿舎で暮らす。耽美的。アイディア満載。ストーリー性もあり、実に見事。ベルナール・フォコンを連想するが、もっとねっとりとしていて、濃い。
▲こういうたっぷりとした作り込みのされた写真集、日本で作っている写真家、アーティストはいない。エンターテインメントになってしまうか(安珠とか?)、歌を詠むがごとき、イメージ的にもっと小さなもの(森村泰昌とか?)になる。豪奢で派手、こってりとしたもりだくさんの大作は、日本人アーティストと体質的に合わないのかなあ、と思ったり。
オンライン書店bk1鏡リュウジ×東雅夫対談。座談巧手のお二人の脇に座っていただけだが、とても楽しい対談だった。鏡さんは幻想文学にも造詣が深く、東さんとのマニアックな会話が快調なテンポで進む。鏡さんは68年生まれの早生まれということで、ぼくより学年は1つ上だが、世代的にいって、占いや、幻想文学に接した体験に近いものがあり懐かしくもなった。小学校高学年から中学生の頃、タロット占いのブーム(『パタリロ!』の魔夜峰夫がイラストを描いたタロットカードもあった)やオカルトブームがあったのだ。図書館にあった国書刊行会の本(幻想文学大系とか)の凝りまくった装幀の本を開くのが楽しかった。鏡さんと東さんの対談は3月末〜4月上旬にオンライン書店bk1で公開予定です。お楽しみに。


2004/03/09/Tue.
▲晴れ。
▲編集協力、コラム、対談(岡留編集長×永江朗さん)の執筆などを手がけた『噂の真相一行情報大全集』(イースト・プレス)の見本が届く。明日(10日)が正式な発売日。「噂の眞相」の最終号と同じ日の発売だ。みなさん、ぜひお買い求め下さい。内容充実、1,090円は安いです!
▲新宿コニカミノルタプラザ・ギャラリー。山内道雄写真展『カルカッタ』(〜3月11日)。壁にびっしりと貼られたカルカッタのモノクロのスナップショット。2000年代の写真ということだが、ぼくが訪れた15年前と変わらないと感じる。熱気あふれる写真群。
▲会場にあった山内道雄の写真集がまた面白かった。山内は東京から香港、上海と、「顔」を求めて旅しているという印象だ。「顔」に宿る、ある種の野生というか、ワイルドなパワーを写真に写す。同時に被写体の社会の中での「はぐれ者感」が顔に出ている。いわば、社会、街の「異物」が写っている。街でそういう連中の「顔」を見つけだす「眼力」の鋭さに恐れ入る。
▲初期の私家版写真集『人へ』(1992年)ではストリートスナップ、『街』(1992年 蒼穹舎)はそんな異物ばかりをクローズアップして編集した異色の肖像写真集。おそらく、写真家自身が強く感じていた「はぐれ感」を被写体に重ね合わせていたのだろう。切迫感さえ感じさせる。
『香港』(1997年 蒼穹舎)では東京から「顔」を探してアジアの裏町へと移動する。旅写真ゆえ、旅情が感じられるところが『街』とはひと味違う。『人へ』『街』には写真家の日常生活に対するいらだたしさのようなものが感じられるが、『香港』では祭りを楽しむ解放感が感じられる。かの地に暮らす人々の顔の「おもしろさ」を発見して、写真家がコウフンしている様子が伝わってくる。しかし、『上海』(1995年 プレイスM)は『香港』の方法論を踏襲しているようでやや刺激に乏しく、『Tokyo、東京』(2003年 ワイズ出版写真叢書 16)は、過去の作品を再編集しているからか、全体にやや散漫な印象。ほかに今はなきモールから『野良猫』という文字通り野良猫写真集の小品がある。
▲写真集『Calcutta』(2003年 蒼穹舎)は写真展『カルカッタ』と同じ写真を編集した写真集だが、少し違うのは、数点、カラー写真が入っていることだ。山内のこれまでの作品はモノクロだが、そのカラー写真が意外や面白かった。解説(淡海千景)によると、フィルムが足りなくなって現地でたまたま買い求めたものとのことだが、解説者が「蝶が羽化するがごとく」と表現しているように、見事な「偶然のイメージ」になっていて、面白い効果をあげていた。写真展会場では統一感を重視したのだろう、モノクロに焼き直していたが、こちらもそれはそれで悪くないというのも興味深かった。カラーかモノクロか、というのはあんがい古くて新しい問題である。
▲写真展『カルカッタ』は状況までを捉えたスナップショット群で、山内スナップの集大成の感がある。状況の中に分け入り、シャッターを切る。辻斬りのごとき電光石火。撮られている側の反応までが収められている。街を歩く躍動感もある。決して「球を置く」ような投げ方ではなく、暴投になってもいいのだという開き直りがあって若々しい。
▲先日放送された2時間ドラマ『パートタイム探偵2』(三池崇史監督 田辺満脚本)をミミタから借りたビデオで見た。超絶面白い! 陳腐なストーリーはともかく、松坂慶子の絶妙なおばさんコメディエンヌぶりとベタなギャグが香ばしい。『キル・ビル』のパロディよりも、ミニスカOL、バニーガールとコスプレする松坂に仰天。三池崇史、おそるべし。「1」見てないのが悔しい。
▲テレビドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』。りょうの顔が怖くて怖くて。俺が子どもだったら泣き出している。娘の親権をめぐり、調停不調で審判へ。大杉漣演じる草なぎクンの父親が家庭裁判所へ提出した上申書が泣かせどころ。


2004/03/08/Mon.
▲晴れ。
▲高崎高島屋に入っている寿司屋で旨くもない寿司を食い、少し高崎の街を撮影して帰りは各停で帰る。カメラはミノルタTC-1。
▲垣根涼介『午前三時のルースター』(文春文庫)読了。快作『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)の垣根涼介のデビュー作。旅行代理店の営業マンが、大切な顧客の孫息子をベトナムに案内する。孫息子はかの地で失踪した父親の行方を探すつもりだった。主人公は、大学時代の悪友(『ワイルド・ソウル』のケイに通じるキャラクター)とともに孫息子をフォローしつつ、捜索するつもりだったが、なぜか妨害工作を受けて……。ミステリーとして、父と子の物語として、芯のある作品。すでにして大器の片鱗はあるが完成度は今ひとつ。ベトナムが舞台ではあるが、その必然性はあまりなかったかもしれない。そういう意味では『ワイルド・ソウル』の南米の描写の充実ぶりはすばらしかったとあらためて思う。


2004/03/07/Sun.
▲晴れ。
▲強風のなか、散歩に。椎名町から東長崎まで歩き、もう一度椎名町を経由して帰るというコース。
映画『the EYE (アイ) 』(2003 香港・タイ合作)をDVDで。映画『レイン』(2002 タイ)の映像派のパン兄弟作品。公開当時、霊が写り込んでいると話題になった。怖い怖いというほど怖くはないが、心霊現象シーンの作り込みは凝っている。
▲2歳で盲目になった女性が大人になって角膜移植手術を受け、目が見えるようになる。すると、同時に霊の姿が見えるようになり、恐怖におののく。しかも、鏡で見る自分は別人だった。角膜のルーツを探して、彼女は精神科医とともにタイへ飛ぶ。タイでの因縁話から、物語の展開が怪しくなってくる。香港での話で収めたほうがよかったた。タイマーケットを意識したのかもしれないが。というのは、タイ人は幽霊話が大好きで、お化けが出てくるホラーコメディは定番なのである。パン兄弟は香港出身だが、仕事の拠点をタイに置いている。
▲監督たちの「白昼の心霊現象を描きたい」という狙いはうまくいっている。東洋的な「霊」が登場するホラーという着想も悪くはない。しかし、物語を語るスキルに欠けるのか、途中でダレる。見終わった後の充実感に乏しい。『レイン』でも同じような欠点が目に付いたが、パン兄弟の本業はそれぞれ映像編集や、特殊効果ということなので、実はもう1人の兄弟がいて、脚本家です……ということになったりすると、格段に面白い映画になるかも。冗談はともかく、『the EYE (アイ) 』は香港資本で、陳可辛(『ラブソング』『君さえいれば 金枝玉葉』などを監督した名匠)プロデュース。陳可辛のワザを盗んで欲しかった。
▲椎名誠『春画』(集英社文庫)読了。文庫化されたのをきっかけに読んでみたのだが、『岳物語』(集英社文庫)『続岳物語』(集英社文庫)の読者にとっては、ちょっと衝撃的な私小説だった。
▲かつて「明るい私小説」を標榜し、読者に広く受け入れられた『岳物語』シリーズを、ぼくはたまたまインドを旅行している時に安宿の本棚で手に取った。親と子のほのぼのとした物語にはまったく興味はなかったのだが、ほかに読む本がなくて読みはじめた。読んでみると意外と面白く、旅行中、何度も読み返した。読み返した理由は、食い物が実に旨そうに描写してあるせいだったが(インドでは三食カレー味で、さすがに参っていた)、こういう親子関係というのもあるのだなあ、とうらやましくも思った。しかし、その後、『岳物語』がベストセラーになったせいで、椎名誠と息子・岳の関係に溝ができたと何かの記事で読んだ。実際、同じく私小説の系譜に連なる『菜の花物語』では、『岳物語』にあった熱気が消えてしまったと感じた。以来、久々に椎名誠の私小説を読んだのだが、その陰鬱なムードに驚いた。これではまさに、日本文学伝統の私小説ではないか。自身の浮気とそのことから生じたトラブルについて書いたり、ストーカー被害を告白したり。妻との半別居生活と、夫婦関係の冷え込みまでを率直な筆致で描いている。一種の「告白」小説である。
▲『銀座のカラス』( 新潮文庫)や『本の雑誌血風録』なども含め、椎名誠の私小説、エッセーはすぐれた青春文学だと思っている。その書き手が中年を経て初老へ至る。その戸惑いと人生の秋をどうすごすのか。興味があるところだ。少なくとも『春画』にはその心の動きが繊細に描かれていて面白かった。


2004/03/06/Sat.
▲晴れ。
▲浅草。カメラと写真の愛好家団体「三多摩LOMO会」の撮影会。今日の撮影会と夜の飲み会の幹事をつとめる。
▲LOMO会という名ではあるが、それは結成のきっかけになっただけで、別にLOMOで撮らなければならないわけではない。しかし、しばらくぶりにLOMOで撮ってみよう、と思ったら、ランプは点くのにシャッターが開かない。すわ故障かと思ったが、あとで諸先輩に聞いたら電池が残り少ないためではないかというアドバイスをいただいた。そういえば、電池を替えたこと、一度もなかった。機材はリコーオートハーフEとライカIIIf+スナップショットスコパー21ミリF4。しばらくデジカメでばかり撮っていたのだが、最近、にわかに銀塩フィルムカメラが使いたくなってきた。久しぶりにバルナックライカを持ち出してみる。
▲撮影会にはうちの赤ん坊のほかに、1月に生まれたばかりのショウタロウくんという赤ちゃんも参加して、にぎやかな集まりになった。
▲撮影会といっても、同じところを歩いて撮っても仕方がないので早々と解散。メンバーの大方は花やしきへ行き、ぼくはカミさんとイクヤのおむつ替えに浅草ROXへ。オープン当時は「ナウ」(死語)なショッピングセンターだったが、紆余曲折あり、現在はヤンママを主なターゲットにしたギャルと子供のショッピングセンターになった模様。グランパパで赤ちゃん用のオモチャを買い、ショウタロウくんへの出産祝いとする。
▲夜は浅草すしや通り「三岩」で宴会。Junkoメンバーが春から九州に帰って女子大生をやることになったので、彼女の送別会を兼ねている。参加者増量は彼女の人徳ナリ。二次会は「三岩」を紹介してくれたWHOちゃんの実家である「ひむろ」で。おでん、美味しかった。無事電車で帰宅。


2004/03/05/Fri.
▲晴れ。
映画『バトルロワイヤルII』をビデオで。新しいゲームのターゲットは前作の主人公、七原秋也(藤原竜也)。1クラス分の生徒が、島に立てこもる七原殲滅のために投入される。前作と同じく、ターゲットを最初に撃った者だけが生き残れるサバイバルゲームだ。『プライベート・ライアン』風の島への上陸までは快テンポで期待させる。しかし、次第に失速、結果的には冴えない出来の映画になってしまっている。
▲前作では近未来の話という設定だったはずなのに、反米的言辞が登場したり、「あの国」(北朝鮮のこと)ほか、日本を取り巻く国際状況が突然語られたりする。アフガン戦争(らしきもの)のこともセリフの中に出てきて、映画の世界観が溶解している。むろん、反米でも戦争反対でもけっこうだが、『バトルロワイヤル』はそもそも極端な設定でのサバイバルゲームに寓意を込めるという方法論の映画だったはず。であれば、現実の政治や戦争について突如語り始められても、見ている側は戸惑うだけだ。さらにはテロを肯定すべきか否かという問題を取り上げるかに見えて、曖昧に物語は終わってしまう。いっそ、権力の暴力には暴力を持って抵抗すべし、という反権力ゲリラ映画にしてしまったほうがスカっとしたのではないか? そうすれば、前作同様、スキャンダラスな話題をまいたはずだ。もっとも、作り手の側にテロリストへのシンパシーがあるとも思えなかったけど。いっそ、若松孝二プロデュース、足立正生が監督して、中東でロケしたらさぞかし面白くなったろう……としばし妄想。


2004/03/04/Thu.
▲晴れ。
▲岩瀬達哉『新聞が面白くない理由』(講談社文庫)読了。これでもか、これでもかと日本の新聞の「ここがおかしい」を徹底追及。マスコミの最高権威とされる新聞の、官僚的な体質、権力へのすり寄り、多角経営の呆れた実体を次々に暴く。
▲新聞も利潤追求のたんなる大企業だと思えばあきらめもつくが、作っている本人たちは一般読者を善導しているつもりだから腹が立つ。大新聞を敵に回してまで、執拗かつ綿密に事実を追求する著者の姿勢にも感動する。


2004/03/03/Wed.
▲晴れ。
▲映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』をDVDで。
▲米コロンバイン高校で起きた2人の高校生による銃乱射事件を題材に、銃社会アメリカの知られざる姿を告発するドキュメンタリー。合衆国憲法修正第二条で認められている「銃を持つ権利」を主張する圧力団体「全米ライフル協会(Natiional Rifle Association of America :NRA)」は銃乱射事件直後に事件が起こった街で集会を開き、銃を持つ権利を堂々と主張した。監督のマイケル・、ムーア自身も銃愛好家の家に育ち、全米ライフル協会の会員でもある。しかしこの事件に対する協会のリアクションに違和感を感じ、銃とアメリカ人をめぐる取材を重ねていく。
▲アメリカが銃社会だということは日本でもよく知られている。日本から米国に留学した学生が、ふざけて銃で撃たれたという事件もあった。アメリカは西部開拓の歴史があり、銃は自由の象徴としてとらえられているという説明のされ方もされる。しかし、この映画を見ると、問題はそう単純なものではないことがわかってくる。
▲「専制政治になったら政府に銃口を向けることもできる」と市民が銃を持つことの正当性を主張する「市民軍」(銃を持った「訓練」の様子は実に楽しそう)。枕の下に44マグナムを置き、銃で身を守るのは当然の権利だと主張する元爆弾事件容疑者。暴力に対しては暴力をもって対抗するという考え方は、アメリカの外交にも顕著に現れている姿勢でもある。
▲映画の初めの方では、銃が簡単に手に取れるアメリカ社会の特異性が強調される。口座を開設すると銃が貰える(!)地方銀行が紹介される冒頭からして皮肉たっぷりのユーモアが感じられ、銃社会アメリカをおちょくる映画なのかな〜と思ってみていた。しかし、映画の後半、アメリカ同様に銃や弾薬が手に入りやすいカナダでは銃による殺傷事件が少ないことが判明するところから、アメリカに特有なある「文化」が銃犯罪の多発を誘引していることがわかってくる。その「文化」とは何かはぜひ映画を見てほしいのだが、自由と民主主義の国を標榜する一方で、世界の警察を気取り、紛争地域に首を突っ込む(紛争の原因をしばしば作りもする)アメリカという国の特異性を理解するうえで説得力のある視点だと感じた。
▲この映画のすばらしいさは、作り手があらかじめ「問い」と「答え」を用意しているのではなく、監督のマイケル・ムーアが、さまざまな取材対象に体当たりし、取材を積み重ねるうちに、考えを煮詰めていく過程までが記録されているところだ。見ているこちら側も、その材料をもとに自分の頭で考えることが必要とされる。こういうドキュメンタリー映画の手法、どこかで見たと思ったら、日本の森達也(『A』『A2』『放送禁止歌』など)だった。
▲桐野夏生の最新刊『残虐記』(新潮社)一気読み。前作『グロテスク』のようなこってり感はないが、シンプルで力強い。個人的にはこちらのほうが好みだ。さすが、桐野夏生、小説が巧いな〜とあらためて思った。
▲35歳の女性小説家が失踪し、彼女が残した最後の小説に、夫の編集者への手紙が添えられているという構造になっている。失踪した小説家が残した〜というのは、ドラマチックすぎてちょっと恥ずかしいような設定だけど、読みはじめるとそんなことはどうでもよくなる(いや、小説全体の「謎」から逆算すればもちろん、どうでもいいわけではないのだが)。ヒロインは10歳の時に1年ちょっとの間、男に監禁されていたという経験をしていた。そのことを隠したまま人気作家として活躍してきたが、出所した男からの1通の手紙が、彼女の記憶を呼び覚ます。20年前の記憶は驚くほど鮮明だったが、そこにいつしか彼女の想像が入り込んできて……。
▲物語が想像力によって逸れていく、ヘアピンカーブを鋭く曲がるようなスリルがある。ぼくの好きな『柔らかな頬』とちょっと似ていて、ここ最近の桐野夏生の作品では一番好きかもしれない。
▲写真家の柴田三雄さんの事務所にお邪魔する。柴田さんは飛行機やスペースシャトル、気球などを迫力満点に撮影する斯界の第一人者である一方、クラシックカメラからデジタルカメラまで新旧カメラとレンズに造詣が深いことでも知られる。デジタルカメラとレンズについて参考になる話をいろいろと聞くことができた。


2004/03/02/Tue.
▲晴れ。
▲日経モノクルの記事の構成と必要な画像をリストアップして編集のHさんに送る。
▲浅草すし通り「三岩」。大学時代からの友人、WHOちゃんと一杯飲む。彼女は今年結婚するかもということで、そののろけ話を聞きにいった次第。WHOちゃんのトークはいつにも増して軽快かつハイテンション。当てられっぱなしだった。
▲昨年度のメフィスト賞受賞作、矢野龍王『極限推理コロシアム』(4月講談社ノベルスより刊行予定)のゲラを読むことができた。メフィスト賞といえば、森博嗣、新堂冬樹、舞城王太郎ら、一筋縄ではいかない多士済々を輩出している賞だ。その筋では話題になる作品だろう。すでに「メフィスト」誌に最初の殺人までの原稿が掲載され、反響があると聞く。
▲損害保険会社に勤める駒形は目が覚めると見知らぬベッドの上にいた。部屋の外に出ると自分と同じように監禁されている男女がぜんぶで7人。コンピュータで「主催者」が送ってきたメッセージはサバイバルゲームの開始を告げるものだった。ここにいる人間は1人ずつ殺されていく。この館のほかにもう一つ同じ館があり、そこにも7人の男女が監禁され、同じように殺されていく。もう一方の館とはパソコンで連絡が取り合えるが、二つの館で起こる連続殺人の犯人二人を当てなければならない。当てられたチームには賞金を、当てられなかったチームには全員の死が待っている。しかも、その解答にいたる以前に、確実にメンバーが殺されていくのだ……。犯人は誰なのか? 生き残れるのは誰なのか?
▲小説として減点法で読んでいくといい点数は与えられない。平易で読みやすい文章だが、拙い表現も目に付くし、登場人物たちの魅力もいま一つだ。しかし、登場人物たちと読者に提示される謎の大胆さ、クライマックスの謎解きの鮮やかさなど読みどころは多い。何より、ムダのないシンプルなストーリー展開に引き込まれた。
▲サバイバルゲームタイプの小説というと、高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版)や、貴志祐介『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫)を連想するが、ぼくが思い出したのは米で人気を博し、日本版も放映された「サバイバー」というテレビ番組だ。二つのチームが競い合いながら、内部からも脱落者が出ていくゲーム。『極限推理コロシアム』のゲームとちょっと似ている。ただし、『極限推理コロシアム』の脱落は死を意味し、犯人を探すという試練があるが。小説としての瑕疵をあげつらうよりも、このゲームを作り、ストーリーを語りきった才能を評価したい1冊。



2004/03/01/Mon.
▲晴れ。
▲先週の座談会のテープ起こし。DVDの音声はクリアで、いちいち巻き戻して聞き直す手間がない。たしかに快適。
▲長編アニメ映画『千年女優』をDVDで見る。アニメをあまり見ない大人でも楽しめる異色作。
▲伝統ある映画会社「銀映」の撮影所が取り壊されることになり、ドキュメンタリー番組が制作されることになる。番組の目玉は、かつての銀幕の大スター藤原千代子へのインタビュー。彼女は映画界を引退して以来、隠遁生活を送っていた。今回のインタビューに応じてくれることになったのは、ディレクターの立花源也が持っていった1本の鍵に理由があった。女優になる前の千代子がたった1度だけ会った男性が残していった鍵だったからだ。
▲なくしたとばかり思っていた鍵を前にして、千代子は自分の半生を語り始める。ディレクターとカメラマンは千代子の話に引き込まれていくが、彼女の実生活と、彼女が映画で演じた役柄とが交錯していく。戦国時代のお姫様からSF映画の科学者まで、彼女が演じた役柄は時を越える。しかし、彼女が追い求めていたのは、常に初恋の男性の影だった……。
▲引退後に姿を見せない女優と言えば原節子が連想される。斜陽の映画会社が撮影所を畳むという設定も斜陽と言われて久しい映画界では珍しくないモティーフだ。この企画を実写で映画化することも不可能ではないだろう。実際に、バックステージものは映画界が得意とするジャンルの一つだ。しかし、『千年女優』はアニメだからこそ表現し得たものがあると思う。実写では、実在の女優、映画会社の影を払拭するのが容易ではないが、アニメの場合、現実を絵に置き換えることで実写によるフィクションとはちがったかたちでの距離が取れるし、ファンタジックな映像も自然に受け止められる(むろん、『千年女優』の制作チームのような優れた腕前があれば、だが)。また、実写でこの企画を実現するなら、相当にゴージャスにやらないと、とても貧乏くさくて見ていられないものになってしまいそうだ。なにしろ、モティーフは映画館のドアが閉まりきらなかったくらいお客さんで溢れかえっていた黄金時代の日本映画だ。当時のゴージャスな映像に負けまいと実写でがんばることは(悲しいことだが)ほとんど不可能だろう。『千年女優』は、アニメならでなはのイメージの展開でかつて存在したかもしれないもうひとつの日本映画の幻を見せてくれた。
▲また、『千年女優』を見るきっかけになったのは先日、『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)の藤津亮太さんとお会いしたからなのだが、『「アニメ評論家」宣言』に収録されている『千年女優』についての評(立花源也という「観客」)が秀逸であることも付記しておきたい。
▲夕食中に電話がかかってきて、急遽ゴールデン街へ。イースト・プレスの方々と。最近、話題を呼んでいる岡本太郎の『強く生きる言葉』(イースト・プレス)を手がけた奇才編集者ホンダさんの人柄に痺れた。


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