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2002/12/31/Tue.
▲晴れ。大晦日。
▲ドン・キホーテでエレクターもどきをひと揃い買い、蕎麦屋で蕎麦を買ってうちに帰る。紅白、毎度毎度、冷え冷えとする内容。もちろん、拾い見しただけだけど。しかし、紅白見るたびに、日本は広いと思うのだ。十年一日のごとき、代わり映えのしない台本と、わざとらしい司会、応援合戦、だじゃれ。俺のまわりにこういうものを喜ぶ人は一人もいないけど、こういうものしか楽しめない人がまだまだこの日本列島にたくさんいるのだなと思う。
▲花園神社に初詣。飲み屋でお餅。煮染め。くりきんとん。美味しうございました。というわけで、今年もお終い。


2002/12/30/Mon.
▲晴れ。
▲うちの近所にある「カフェ」で、ここ数日どっぷりとハマっている、福井晴敏『終戦のローレライ』(・講談社)をひたすら読む。ようやく下巻のクライマックスへ。男泣き。
▲新宿歌舞伎町のスカラ座閉店という話を聞いていたので、行ってみると行列。並んでまでサ店に入る趣味はないので止めて、職安通りのドン・キホーテで買い物。エレクター(もどき)を買うつもりでカタログもらう。ワイン、携帯電話、CD(鬼束ちひろ、元ちとせ)などを購入。
▲電車の中でついに『終戦のローレライ』読了。物語の世界から引き剥がされたような、空しさ、哀しさ。個人的には、本年度ベストワンです。そして、これまで福井晴敏の小説の中では処女作『川の深さは』(講談社)がベストだと思っていたが、この大長編で見事に乗り越えた。『トゥエルブY.O.』(講談社文庫)と『亡国のイージス』(・講談社文庫)は、いま思えば、『川の深さは』のモティーフをより深く、より豊かに歌い上げようとした結果だったような気がする。しかし、『終戦のローレライ』はその優れた三部作から、さらに極みを目指している傑作だ。必読ですぞ。
▲友人宅で毎年恒例の西荻きりたんぽ鍋会。30代4人で「ザ・ベストテン2003」。昔懐かしい歌謡曲の連続、「あの人はいま」的なネタの連打に過去を振り返り、いたたまれなくなったのか、主人がチェンネルを替え、NHKドラマ「量刑」。スマスマ裁判。


2002/12/29/Sun.
▲晴れ。
▲で、あと原稿残り2本ということになり、そのうちの1本をあげて関係各位に送付。
▲恒例の飲み会。ああ、忘年会。


2002/12/28/Sat.
▲晴れ。
▲昨日、「納め」られなかった仕事。「チーズプラザ」初校直しのドタバタ。
▲安原顯さんのご自宅に伺い、安原さんのiBOOKをADSLにつないだり、「尊厳死」について話す。でも、パソコン触ると身体に悪そうなので、年内は使わないとのこと。ほんと、ご自愛くださいまし。「週刊朝日」の記事で安原さんが癌だということを知った島尾ミホさんの「過剰な愛」の逸話を聞き、心が締め付けられる思い。年が明けたら、ぼくが安原さんにインタビューし、「清流」誌とオンライン書店bk1にそれぞれ掲載しようという話になる。「言いたいことがいっぱいある」とは安原さんの弁。
▲三多摩LOMO会忘年会。カメラと写真好きの集まり。作品回覧と暴露話。
▲オンライン書店bk1の<ブックサイト ヤスケン>安原さんの近況報告をアップ。


2002/12/27/Fri.
▲晴れ。
▲オンライン書店bk1の<怪奇幻想ブックストア>幻妖週報〜店長備忘録〜をアップ。リナックス・ザウルスかあ。ちょっと興味あるなあ。
▲安原顯さんが慶応病院を一時退院するので、その付き添い。無事退院できてまずは一安心。でも、自宅療養ということで、少し不安もあるのだと思う。何ができるというわけではないけど、手伝えることはしてあげたいと思う。それは全国のヤスケンファン共通の思いだと思うけど。
▲三冊連続で安原さんの本(『読んでもたかだか五万冊!』『ふざけんな人生』『ファイナル・カウントダウン』)を出版する清流出版の納会に。社長の加登屋陽一さん、編集者の藤木健太郎さん、古満温さんほかの方々とお会いした。出版の話、写真や本の話など楽しい時間を過ごす。
▲宴会の席上で、斎藤利江写真集『あの日、あの時、あの笑顔』(清流出版)をいただいた。群馬県桐生市在住のアマチュアカメラマンの女性が、昭和三十年代に撮影した写真を編んだもの。棄てたと思っていたネガが偶然に見つかったことから、本が作られたのだという。懐かしい生活がモノクローム、スナップショットで綴られている王道的な写真集。経験したことはないはずなのに、どこか懐かしいという不思議な感覚を味わえる。惜しむらくは、もうちょっと写真を楽しむための周辺情報(昭和三十年代、撮影者、撮影された場所などなど)が欲しかったことと、この写真集が生まれるまで、あるいはこれらの写真が撮られたことにまつわるドラマを盛り込んで欲しいと思った。これは自戒を込めてだけど、写真の豊富な情報量を引き出せずに本にしてしまっているような、そんな勿体ない感じがしたのだ。
▲仕事の続き。「チーズプラザ」の初校チェックを8割方終える。バタンキュー。


2002/12/26/Thu.
▲晴れか曇りかも覚えてない。
▲『使うベッサ』(赤城耕一著・双葉社・1月28日刊行予定)の印刷入稿を終える。もう、へとへと(泣笑)。
▲以前、二冊だけパソコンの本を作ったことがある。iMac(初代)とOS8.5についての本だから、大昔だが、その時に知り合ったアスキーの編集者の人たちと久々に会う。歌舞伎町の台湾料理屋「三国志」で海鮮鍋。美味なり。


2002/12/25/Wed.
▲晴れか曇りかも覚えてない。
▲記憶がない。『使うベッサ』ポジ入稿。初校チェック。まあ、そんなとこだろうと思う。安原さんのところに顔を出した……はず。
▲オンライン書店bk1の<ブックサイト ヤスケン>安原さんの近況報告をアップ。


2002/12/24/Tue.
▲曇り。クリスマスイブだとか。
▲クリスマスというコトバで連想するのは鳥のもも肉で、あれは一年のうちクリスマスにしか食べないし、おいしかったなと子供時代を回想したり。
▲安原さんのところに行けず。仕事が終わらない。家人も年末進行で追いつめられており、外食することに。クリスマスイブということでいかにも混んでいそうな店は避け、イスラム教なら関係ないだろうとトルコ料理屋へ。日本人ベリーダンサーが登場。
▲福井晴敏『亡国のイージス(下)』(講談社文庫)読了。クライマックス、とことん、盛り上げていくテンションの高さがすばらしい。ラストシーンの鮮やかさも見事。しかし、心のどこかに『川の深さは』(講談社)の清新な魅力を懐かしく思う気持ちも。くったくを抱えた中年男、トラウマを抱えつつテロリストとしての技量を磨くことでしか生きてこられなかった美少年という組み合わせが同じだからだろう。そういう意味では、福井晴敏は繰り返し同じ歌を歌っているのだと思う。小説を書く腕前が一作ごとに上がっているさまは劇的だが、であればこそ、原点である『川の深さは』が懐かしく思い起こされるのか。いずれにせよ、当代一流の書き手の一人であり、一度も読者を失望させたことのない作家である。


2002/12/23/Mon.
▲曇り。天皇誕生日だったか。
▲年末進行、土日も祝日も関係なし。というか、『使うベッサ』のスケジュール、マジやば……。内藤正敏さんのインタビュー原稿(インタビュアーは赤城耕一さん)をまとめて、レイアウトまでやってファックス。
▲福井晴敏『亡国のイージス(下)』(講談社文庫)に突入。終わらない……。


2002/12/22/Sun.
▲曇り。
▲今日もテンション上がらず。夕べ見た夢は双子の夢。
▲地味な一日。半分は仕事がらみでまとめ買いした写真集がbk1から届く。
『Rakuen 三好和義写真集』(小学館 写楽Books)。人気写真家の出世作。三好和義は高校時代にニコンサロンで写真展を開くなど早熟の才を見せ、大学時代から「ブルータス」などの雑誌メディアで活躍、卒業と同時に「楽園」という名の写真事務所を開き、現在まで第一線にいる写真家だ。第11回木村伊兵衛賞受賞作となったこの写真集は、三好がライフワークとしている「楽園」のイメージを南洋のモルディブ、セイシェルに求めたもの。その土地の文化的な背景は一切省略、無国籍な風情の中にイメージを追い求めている。この種の写真は好きか嫌いかと言われると、好きではないが、不純物を排してひたすらに心地よい風景を切り取るストイックな世界には確かに快感がある。残念なのは印刷のクォリティーが低いこと。1985年の初版から12年を経た11刷目を新品で入手したのだが、それくらい売れているなら、新装版を出して欲しい。といっても、三好は「楽園」シリーズを続々と出し続けているから、いずれは「楽園全集」的なシリーズにまとめるだろうけど。
▲『Rakuen』は軽装の写真集だが、「写楽Books」の1冊だというところが懐かしい。80年代前半に「写楽」という写真雑誌があった(終刊は85年)。大ベストセラーになった『日本国憲法』(絶版)もこのシリーズの1冊である。ほかに『ミッドナイト・サン 新北欧紀行』(丸山健二文・景山正夫写真)などがある。
『Alaskan dream 1 星の物語』(星野道夫写真・三村淳構成 TBSブリタニカ)。96年にテントで就寝中、クマに食われてしまった写真家、星野道夫。いまだに人気が衰えない。このシリーズも新刊で、まだ刊行途中だ。今まで食わず嫌いで真剣に見たことがなかったのだが、いい写真を撮る人だったんだなあ、と思った。この夏の「タマちゃん」ブーム、俺にはあのアザラシが中年のハゲオヤジにしか見えず、どこが「可愛い」のかさっぱり理解できなかったが、この写真集の前半を占めるアザラシ(種類は違うが)は実に可愛い。生まれたばかりの赤ん坊(へその緒付き)から、家族まで、真っ白い雪原に白い毛をふさふささせたアザラシがごろごろしている。その様が実に美しく、決まっている。後半はホッキョクグマ。こちらはちょっと着ぐるみっぽくい。いずれも、現実感が失われるくらい、非日常的な美しい風景だ。星野道夫の美学が見いだした野性の美。その美意識に惹かれるファンが多いのではないかと感じた。構成は、『オーパ!』シリーズなど、写真の扱いの上手さで知られるアート・ディレクターの三村淳。他人がエディションしたがゆえの、遊び心が随所に感じられて面白かった。
▲福井晴敏『亡国のイージス(上)』(講談社文庫)。家族から見捨てられた冴えない中年男、殺人マシーンと化した美青年。またかよ……と思いつつも、小さなエピソード一つにぬくもりを感じさせる。福井節全開。ただし、長い……。


2002/12/21/Sat.
▲雨。
▲『使うベッサ』のためのインタビュー原稿その他。病院に寄って帰宅。
▲雨で鬱々。何もする気になれない……とも言っていられないので、やらなきゃならないことをいくつか。。
▲オンライン書店bk1の<怪奇幻想ブックストア>『世界の果ての庭』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞! 「西崎憲の世界」フェア(特典付き)をアップ。東雅夫さんによる西崎憲さんへの一問一答。西崎さんのご好意で、フェア対象商品をお買いあげいただいたお客様に、西崎さん執筆の掌編小説をメールで送付します(送付は2月上旬予定)。
▲<怪奇幻想ブックストア>の記事をもう一つ。東雅夫さんの人気連載幻妖週報〜店長備忘録〜。創刊以来20年間、東さんが編集長を務めてきた「幻想文学」誌が休刊するという。寂しい話だが、ご本人たちとしては、むしろ、これから新しい展開をしていくためのポジティブな決断だったようだ。いずれにせよ、休刊フェアなどのかたちで、<怪奇幻想ブックストア>としても盛り上げていきたいところ。
<ブックサイトヤスケン>安原さんの近況報告を更新。


2002/12/20/Fri.
▲曇り。
▲自然食料品店で「玄米スープ」を探す。二軒目で見つけ、買ってから慶応病院へ安原さんに届ける。
▲『使うベッサ』、ポジ入稿第一弾。へとへと。焼き肉食べて少し元気に。
▲その焼き肉屋で「平壌焼酎」を初めて飲んだ。北朝鮮製の焼酎だが、韓国の真露とは違って辛口。こちらのほうが旨いかもしれない。お店の人によると、客に「なぜ北朝鮮のものを置くのか?」と怒られたとか。日本人の単純さ、極まれり。
▲編集部に本を置き忘れてがっかり。置き忘れたのは安原さんの自伝『ふざけんな人生』(清流出版)。安原さんといえば編集者としての仕事を振り返った『「編集者」の仕事 決定版』(マガジンハウス)があまりにも有名だが、『ふざけんな人生』は『「編集者」の仕事』以前について書いた本。幼児期の体験から、疾風怒濤の60年代青春記まで、スピード感満点の文章で書かれている。まさにファンキー。ヤスケン=書評を書く人、と思っている人にこそ読んで欲しい。これ読むと、安原さんには小説を書いて欲しいなあ、と思ってしまう。
▲で、うちに帰って福井晴敏『亡国のイージス(上)』(講談社文庫)を今さら。新刊『終戦のローレライ』(・講談社)を読むための前哨戦。


2002/12/19/Thu.
▲曇り時々雨。
▲とにかく忙しかった。その合間にメールのやりとり。人間研究のためのMLの名称を「蠍子供会」とすることに決定。
▲韓国大統領選。接戦だった。韓国の政治家のほうが人材豊富、と感じるのは「隣の芝生」かなあ。日本がひどすぎるのか。


2002/12/18/Wed.
▲晴れ。
▲10年ぶりに復活(?)するTBS金曜ドラマ『高校教師』の制作発表を見に行く。「セラピスト」(BABジャパン)誌で、伊藤一尋プロデューサーとアイディアカウンセリングセンター主宰の浮世満理子さんとの対談企画があり、そのまとめを頼まれたので。浮世先生と記事のコンセプトについて軽く話す。記者会見で印象に残ったのは、野島伸司のしゃべり方が田村正和によく似ていることと、ソニンのど根性。
▲ついでに、東京都写真美術館で写真展・永遠の蒸気機関車『くろがねの勇者たち』を見る。「写真家が撮った〜」というパネルの文字に失笑。作家が鉄道をどう撮ったか? なのか、鉄道がどう撮られてきたか? なのか。展示の流れが中途半端なうえに、妙な作家主義をふりかざしているところが意味不明。一枚一枚の写真は面白いのに、それをどう見せるかというところで、ふんぎりが悪い。頭のいい学芸員の方たちの写真的教養が邪魔をしたのかしらん。しかし、こういうかたちで時系列的に写真を並べると、いつもながら「古い写真のほうが断然良い」と思う。いくつかの理由が思い浮かぶが、それらを脇に置いておき、写真というメディアの特性として、古ければ古いほど、その記録性が際だつ、ということがとりあえず今日の発見。
▲仕事は眠気をこらえつつ原稿整理など。病院を経由して帰宅。
▲やっと『ザ・スープ』(川端裕人・角川書店)を読み終える。実に緻密に構成された物語、豊富な知識、ともに素晴らしいと思う。とくに真ん中くらいまでは強烈に面白かった。しかし、物語の収束とともに、気持ちも少ししぼんでしまった。物語が終わらず、続いて欲しいと思ったのは『ザ・スープ』的世界に取り込まれていたからか。


2002/12/17/Tue.
▲晴れ。
▲病院に寄ってメールを配達してから、編集部へ。いろいろとせっぱ詰まっていて、やや混乱気味。
▲忘年会。居酒屋→カラオケ。今年も終わりですね。


2002/12/16/Mon.
▲晴れ。
▲『使うベッサ』(赤城耕一著・双葉社・03年1月下旬刊行)に収録する「写真家インタビュー」のために、内藤正敏さんにお会いするために三鷹へ。インタビュアーは赤城さん。主な話題はベッサLについて。シンプルな機能のスナップカメラ、ベッサLについて、内藤さんは「カメラの原点」と賛辞。聖なる山から太陽の動きを撮影したり、神事の撮影を行なっている内藤さんにとって、年末年始は忙しい季節。しかも、折からの妖怪ブームも手伝って、原稿執筆にも忙しいとか。内藤さんは1938年生まれ。この世代の人って元気だよなあ。
▲内藤さんより1年下の安原顯さん(1939年生まれ)もだいぶ元気になってきて、入院直前よりも顔色もよくなった。一日のうち、大半を睡眠時間にしているかなじゃないかな。面会もお断りしているので、ゆっくり休んでいる様子。来年、何をしようか? など、近い将来のことを話す。奥さんも嬉しそう。ともかく良かった。明るい気分で病院を後にする。
『このミステリーがすごい! 2003年版』(宝島社)、立ち読みで済まそうと思っていたんだけど、何となく買ってしまった。ここ数年の「このミス」の感覚、ぼくはあまり好きじゃない。中途半端というか。「文春」と『本格ミステリ・ベスト10 2003』(原書房)という対極にある二つのベストテンのほうが納得がいく。


2002/12/15/Sun.
▲晴れ。
▲午前中、だらだらしてから、午後、病院を訪ねる。安原さん、お休み中だったので声を掛けず、奥さんに「激励メール」を渡して出る。
▲『使うベッサ』の原稿整理、インタビュー原稿のまとめ。うー。
▲中村智志『路上の夢 新宿ホームレス物語』(講談社文庫)読了。ホームレスとの距離感を物足りないと見るか、自分たちと近い距離感だと見るか。ぼくは半々。でも、一つひとつのエピソードが光っていて、読み応えがあるのは間違いない。力作。続編を書いて欲しい、と無責任な読者としては思うのだった。
▲川端裕人『ザ・スープ』(角川書店)を半分ほど。政府機関や公的機関のサーバーへの攻撃で勇名をはせるクラック集団「EGG」に立ち向かったのは、クラッカー退治のプロフェッショナル、周防巧だった。巧が原案を作った人気オンラインRPG「S.O.U.P」をクラッキングした「EGG」は巧を「S.O.U.P」へといざなうが、そこには……。川端裕人は日本テレビ、科学技術庁、気象庁担当記者を経て作家。「夏のロケット」で第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞。『ペンギン、日本人と出会う』(文藝春秋)などのノンフィクションも書く多才の人。


2002/12/14/Sat.
▲晴れ。
▲病院へ「メール」を届けてから、鶴見へ。
▲作家の松本賢吾さんに總持寺を案内してもらう。石原裕次郎のお墓など。松本さんは總持寺前の石材店で墓掘り人として働いていたことがあり、その経験をもとに元刑事の墓掘り人・原島が探偵役を務めるハードボイルド(『墓碑銘に接吻(くちづけ)を』(双葉文庫)『墓碑銘に接吻(くちづけ)を』(双葉文庫)『エンジェル・ダスト』(双葉文庫)『慚愧の淵に眠れ』(双葉社)『永遠の復讐』(双葉社))を書いている。今日は、Sさん、家人と、小説の舞台になった場所を作家ご本人に案内してもらい、夜はお酒をごちそうしてもらうという、贅沢かつありがたい一日だった。


2002/12/13/Fri.
▲晴れ。
▲早起きして、『使うベッサ』の原稿整理、午後にデザイナーのH氏に渡す。スケジュール確認。かなりヤバい状況かも……。写真家の内藤正敏さんに電話、取材の快諾をいただき、少しほっとする。
▲仏文学者・文芸評論家の中条省平さんにインタビュー。オンライン書店bk1のお正月企画「本は生きている」のためのもの。bk1のTさんと学習院大学仏文科の研究室にうかがった。bk1に寄せられた読者書評の中から十数編を選び、中条さんに見ていただき、プロの書評家から見た読者書評のレベル、インターネット独得の書評のスタイル、新聞雑誌の書評との違いなどについてお話をいただく。常のごとく論理明晰、切れ味抜群。そういえば、中条さんの近刊のタイトルは『名刀中条スパパパン!!!』だった。
▲中条さんから次号「論座」に掲載するという原稿のコピーをお預かりする。安原顯さんに渡して欲しいとのこと。読ませていただいたが、安原さんとの出会いから、安原さんの罵詈雑言の裏にある「異常な愛憎」までを少ない紙数のなかで愛情を持って書いていて、感動した。その足で病院へ行って、安原さんに読んでもらった。
▲中村智志『路上の夢 新宿ホームレス物語』(講談社文庫)をちょっとだけ。一気に読もうと思ったのに、本をうちに置き忘れてしまった。「週刊朝日」記者が取材した新宿西口ホームレスたちの生活と事情。講談社ノンフィクション賞受賞作『段ボールハウスで見る夢』を改題、文庫化。


2002/12/12/Thu.
▲晴れ。
「チーズプラザ」写真選考会、など。
▲病院。安原さんの調子、少しずつよくなっている。良かった。
▲伊井直行『服部さんの幸福な日』(新潮社)読了。途中から物語の展開がどんどん早くなっていき、あれよあれよというまにクライマックスを迎える。何か、いろいろなメタファーがあるんだろうけど、そんなことなど分からなくても物語として面白い。服部さんに「浮気相手と別れろ」と教育的な圧力を掛けているある一家の悪意と、その悪意に立ち向かおうとする服部さん(しかし、読者は必ずしも服部さんをヒーローとは見なせないだろう、モラル的に)。日常から非日常へ滑り込んでいく感覚が迫真。読んでみたいと思ったきっかけとなったbk1の『服部さんの幸福な日』(新潮社)にぶら下がっている柴田元幸さんの書評を改めて読んでさらに納得。『濁った激流にかかる橋』(講談社)も読んでみたい。
▲【アルカリ】書けず。三日坊主ナリ。


2002/12/11/Wed.
▲晴れ。
▲水道工事、午前中で終わり。
▲浅暮三文『殺しも鯖もMで始まる』(講談社ノベルス)読了。『左眼を忘れた男』(講談社ノベルス)『石の中の蜘蛛』(講談社ノベルス)と注目作が続いている浅暮三文の最新刊。地底の中から発見された奇術師の死体。死因は窒息ではなくて、なぜか餓死。弟子たちの跡目争いか、それとも? 
▲名探偵は、欧米のことわざを直訳して日常会話に引用するハーフの葬儀屋。事件の行方は? といった内容。ユーモア、遊び心など、仕掛けの入念さに興趣がある。でも、トリックと探偵のキャラを引き立てようということなのか、肝心の容疑者たちのキャラクター描写が平板で、あらすじを読まされているような印象。もっとこってりとやって欲しかった。
▲伊井直行という作家がずっと気になっていた。やっと手に取ったのが『服部さんの幸福な日』(新潮社)。半分まで読んだところだけど、面白い。電車で読んでいて、一駅乗り過ごしてしまった。
▲飛行機事故で奇跡の生還を果たした平凡なサラリーマンが主人公。事故をきっかけに、周りの環境も、自分自身も、微妙な変化を見せる。さらに、主人公を逆恨みして、つけねらう人々が……。エンターテインメントとは違うけど、小難しいブンガクってのとも微妙にズレていて、いかにもありそうなこととありそうもないことが入れ替わりに現れる。その行ったり来たりが面白い。
▲病院。安原さん、昨日からお変わりない様子。眠り薬の量、吸入している酸素の量も少しずつ減らしているとのこと。調子が上向いている様子が感じられて嬉しい。「安原さんへのメッセージ」の本日分のプリントアウト、「噂の真相」に載った安原さん自身のインタビュー記事を読んでいらした。
▲メールマガジン【アルカリ】を発行。お題は映画『夜を賭けて』。この号を読んでみたい、という方はこちら。配信を希望される方はTOP下に申し込みフォームがあります。


2002/12/10/Tue.
▲曇りのち晴れ。
▲早起き。水道工事。午後イチでちょっとだけ『使うベッサ』(赤城耕一著・双葉社・一月下旬発売予定)の原稿をデザイナーさんへ。
▲病院。今日の安原さんはかなり元気そう。一昨日が一番ひどかったんだな、と今思えば。夕べから届き始めた「安原さんへのメッセージ」をプリントアウトして届けた。嬉しそうだった。夜が精神的に辛いらしいから、それが心配。
オンライン書店bk1に安原さんの近況報告をアップ。
▲メールマガジン【アルカリ】を発行。お題は長嶋有『タンノイのエジンバラ』(文藝春秋)。配信を希望される方はTOP下に申し込みフォームがあります。


2002/12/9/Mon.
▲雪。寒い。
▲たまっている仕事の量にやや暗然。今週はキツそう。
▲病院へ。今日は安原さんの食が進み、奥さん、娘さんとの団欒。少し安心。
▲家に帰って、慌ててオンライン書店bk1に安原さんへの伝言、激励メッセージについてをアップ。双葉社の編集者、草野頼子さん(安原顯さんの担当)から「激励メールの窓口を作っては?」という提案をいただき、安原さんとご家族に相談して、とりあえず、ぼくのメールアドレスを窓口にすることに。入院中の安原さんはメールを読むことができないし、ご家族も家を空けることが多いので、連絡を受けるのが難しいからだ。
▲大西みつぐ『デジカメ時代のスナップショット写真術』(平凡社新書)を半分まで。当代の、東京下町スナップの名手として知られる著者によるスナップ写真のハウツー本。著者にはすでに『はじめての一眼レフ』(講談社現代新書)という入門書があり、懇切丁寧だったという覚えがある。
▲しかし、『デジカメ時代のスナップショット写真術』は、自身の撮影スタイルについて言及するということの難しさゆえか、全体に歯切れが悪い。スナップ写真というものが、歴史的に過去に属していて、現代において有効性を持ち得ない(あるいは時代から求められていない)ということを否定し切れていないというか……。そもそも「スナップ」という概念そのものを疑わないと、この隘路は抜けられないような気がする。
▲写真家の高梨豊は都市のスナップショットで構成したシリーズ<東京人>を「カメラ毎日」に発表するにあたって自身の行為を「スクラップの拾い屋」と自嘲気味に呼び、そこから「イメージの狩人」たらんとして悩み、苦しんだ。思えば、そこからスナップ写真の受難の季節がはじまったのではないかと思う──って、「カメラ毎日」に<東京人>が掲載されたのは1964年1月号。ぼくがまだ生まれてもいない時に、すでに「スナップ」は終わっていたということなのだ。いや、そもそもスナップショットなる言葉が生まれた時に、スナップという手法は類型的な表現に駄してしまったのかも知れない。「撮りたい」という欲求の前には、スナップも風景もポートレートも、すべて等価ではないのか。その一つのあり方をめぐって何かを語っても、どこかハンパな感じがしてしまうのだ。「デジカメ時代の〜」というタイトルといい、その読者対象がよくわからない文章内容といい、なんだかよくわからない本である。ただ、大西みつぐさんが生真面目な写真家だということはよくわかった。写真表現に全力で取り組んでいる方なのだろう。
▲久しぶりにメールマガジン【アルカリ】を発行(まぐまぐ登録の方には明日の朝配信されます)。お題は角田光代『空中庭園』(文藝春秋)。配信を希望される方はTOP下に申し込みフォームがあります。最近、間歇的にしか発行していませんが、とりあえず、もう一回分はストックあります。調べてみたら、9月に出して以来。こりゃ「季刊アルカリ」にしたほうがいいかもしんない(笑)。


2002/12/8/Sun.
▲曇り。
▲病院。
▲吉野信『アフリカを行く』(カラー版 中公新書)読了。長年に渡ってアフリカで撮影を続けている写真家が、写真とイラストと文章でアフリカの野生動物たちと、人間たちの生活を描く。百聞は一見に如かずというか、写真でしかわからないことも、文章でしか理解できないこともある。加えて、「動物を描くイラストレーターになりたかった」という吉野さんが現地でスケッチした動物の姿や、工芸品などがアフリカの雰囲気を伝えている。写真満載で肩の凝らないアフリカ本。


2002/12/7/Sat.
▲雨。
▲写真家の吉野信さんとお会いしたのち、病院に寄ってから「ローライの夕べ」。深夜まで。
▲大竹省二『遥かなる鏡 ある写真家の証言』(東京新聞出版局)読了。終戦直後の混乱期に絞って書かれているので、もっと続きが読みたい! と思う。「過去を振り返るのは好きではない」とあとがきに書かれているが、そう言わずに!


2002/12/6/Fri.
▲曇り。肌寒い。
▲写真家の丹地敏明さんに取材。来年1月25日創刊の新雑誌「チーズプラザ」の記事「投稿写真攻略法」のためのもの。丹地さんはネイチャーフォト、職人の手仕事などをテーマにした作品を発表する傍ら、写真コンテストの審査員を長く務め、アマチュアの指導にも熱心。今日も具体的なお話を交えて、写真の楽しみ方をお聞きする。丹地さんの主な著書は、写真集『森の水音をきく』(世界文化社)、ハウツー本『写真のプリントと見せ方』(学研)など。
▲安原さんのところに寄ってから、「チーズプラザ」編集部で投稿写真を大量に見る。子供子供子供子供子供子供子供子供子供子供。赤ちゃんとか子供とか、撮り方が似通っているので、アカの他人が同じ子供に見えてくる始末。思わず笑ってしまった。失礼だけど。
▲しかし、もちろん、なかには巧い写真、いい写真もある。巧いというのは、ちゃんと一眼レフで構図を考えて撮っているようなハイ・アマチュア風の写真。いい写真というのは、コンパクトカメラとかデジカメで何気なく撮ってるんだけど、感じのいい写真である。「チーズプラザ」の性格上、後者の写真を優先したいと思っている。写真というのはたいていの人が失敗せずに撮れるようになっているから、カメラや写真の知識がなくても、出会い頭の一瞬をとらえれば、一枚の傑作たりえるようなところがある。だから、写真にハマるのだろう。似たような写真に見えても、撮った人にとっては唯一無二の一枚である。
▲秋山亜由子『虫けら様』(青林工藝社)を読む。ぼくがお手伝いしているオンライン書店bk1の「怪奇幻想ブックストア」で東雅夫さんがイチオシしているから。一読、久々に「ガロ」系マンガの秀作を読んだという気持ち。ぼくは虫嫌いで、食べられるのはイナゴの佃煮くらいだけど、このマンガに嫌悪感は覚えなかった(いや、虫を食べる話じゃないんですが)。子供の頃には虫が大好きだったこと(食べるほうではなく)、ファーブル昆虫記とか、昔話の虫が活躍する話が好きだったことなどを思い起こしつつ、虫って可愛いなあ……と。単純です。著者と版元のご好意で、「怪奇幻想ブックストア」内に立ち読みコーナーを設けましたので、ぜひご覧下さい。ちょっとおすすめ。
▲大竹省二『遥かなる鏡 ある写真家の証言』(東京新聞出版局)を読みはじめる。たまたま本屋で見つけたのだが、98年に出版されてる本なのに、その存在を知らなかった。大竹省二さんは秋山庄太郎と並んで、最長老の写真家である。1920年生まれ。ぼくも二度ほど取材にうかがっており、ライフストーリーの大枠は知っているつもりだったが、この自伝を読むと知らなかったことがたくさんあり、不明を恥じた。しかも、本書は副題を改めて中公文庫にも収録されている(『遥かなる鏡 写真で綴る敗戦日本秘話』)。まだ読みはじめたばかりなのだが、さっそく面白い。上海で情報将校だった大竹さんが復員して疎開しているお父さんのところに行くと、お父さんは若い女を家に入れていて旅館に泊まれと家にも入れてくれない。東京へ戻った大竹さんはお父さんに「カメラはどこにある。それが欲しい」としごく簡単な手紙を出す。終戦直後、みんなが食べることしか考えてなかったのに、焼け跡を撮ろうと考えたというのがいい。さらに、大竹さんはスナップを撮っていて米軍将校と出会い、アーニー・パイル劇場の専属カメラマンとなって、マッカーサーやマリリン・モンローを撮るチャンスを得るのである。昔の人の話は面白い。
▲オンライン書店bk1に安原さんの近況をアップ。


2002/12/5/Thu.
▲晴れ。ちょっと暖かい。
▲岡本ノオトさんと打ち合わせ。岡本さんから「安原さんの奥さんに」、とホメオパシーをお預かりする。疲労回復にいいとのこと。
▲安原さんの病室へうかがう。『ライカな眼』(高梨豊著・毎日コミュニケーションズ)を進呈する。本を読めるような状態ではないのに、と気が引けたのだが、どうしても安原さんに自分が編集した本を手にとって欲しかった。安原さんはわざわざ起きあがって、1ページずつめくって見てくださった。
▲「季刊クラシックカメラ」編集部で写真家の田中長徳さんとお会いする。長徳さんは今日のライカブーム、クラシックカメラブームの立て役者であると同時に、都市のスナップ、風景を撮り続けてきた写真家である。その長徳さんは、青春時代、高梨豊さんの熱心なファンだった。『ライカな眼』では対談のトリに登場していただき、その頃のお話をしていただいている。
▲松井計『ホームレス失格』(幻冬舎)読了。前著『ホームレス作家』(幻冬舎アウトロー文庫)でお腹一杯、という気分もあって、刊行後しばらくは読むつもりはなかったのだが、「1」がそれなりに面白いと「2」も気になるもので、なんとなく読んでしまった。読めば、ところどころかったるいところがあるものの最後までほぼ一気読み。人の私生活をのぞき見する楽しさがある。著者は「何事も包み隠さず書くのだ」と端から見ると滑稽なほどマジに告白的ノンフィクションに取り組んでいるのだが、著者の自意識の強さが現実を歪めているんじゃないかという疑念がぬぐい去れない。失礼な言い方だけど。しかし、生活の細々とした様子や、金銭のことがぼかさずに書いてあったり、行政との戦い、幻冬舎の担当編集者とのやりとりなど読み応えはある。本人は「これでノンフィクションはお終い」と書いているが、そんなこと言わず、もう一冊でも二冊でも。
▲たこ焼き食べた。


2002/12/4/Wed.
▲雨。
▲オンライン書店bk1に、安原顯さんへのインタビューヤスケン、新刊三冊 ほぼ同時発売を語る!をアップ。11月に発売された3冊の著書についてインタビューしたもの。
▲安原さんのお宅へお電話。安原さんは病院へ戻られたとのこと。
▲bk1のFくん、Sくんと12月掲載予定の書評について打ち合わせ。
▲高木徹『ドキュメント戦争広告代理店』(講談社)読了。読み応えのあるドキュメント。著者はNHKのディレクター。2000年に「民俗浄化〜ユーゴ情報戦の内幕」をNHKスペシャル枠で放映し、国際的な評価も受けている。本書はテレビ番組のための取材に加えて、その後の追跡調査から得たものをまとめたもの。テレビディレクターらしく、事実からドラマを抽出する腕前が実に巧みで、登場人物たちのキャラクターが鮮やかに浮かび上がる。それでいて「告発」調ではなく、問題点を指摘しながら、現状認識の大切さを説くバランス感覚にも優れたところを見せている。
▲1990年代前半。ニューヨークの広告代理店ルーダー&フィン社のPRマン、ジム・ハーフはクロアチアの国際社会へのPRを担当し実績を上げたのち、独立したばかりの小国ボスニア・ヘルツェゴビナからPRを依頼される。ボスニアにはモスレム人(オスマン・トルコ支配以来のイスラム教徒)、セルビア人(ユーゴスラビア連邦を牛耳っている)、クロアチア人の3大民族が居住し、4割を占めるモスレム人政府がユーゴスラビア連邦からの独立を宣言すると、三つどもえの内戦状態に陥る。とりわけ、ユーゴスラビア連邦では多数派だったのに、ボスニア独立して少数派になってしまったセルビア人勢力と政府の間には激しい憎悪が生まれる。そこから生まれたのが「民俗浄化」というあのゾッとする言葉だ。
▲国際報道の論調は、おおむね、セルビア人を悪玉として扱った。ボスニア内のセルビア人勢力のバックにはユーゴスラビア連邦を実質的に仕切っていたミロシェビッチ大統領がいるとされ、連邦を維持したいとするセルビア人の野望が、この悲劇を生んだとされたからだ。しかし、ボスニアの国際社会へのPR戦略が、広告代理店による仕切と仕掛けにあったとしたら?
▲メディアが発達した社会ではPRのテクニックは不可欠だ。そして、そのことに鈍感な政治家、ひいては国家は生き残れない。本書は、国際社会での熾烈な生存競争にPRが重要な武器となることを明らかにすると同時に、巧妙なPRによって、しばしば事実が見えなくなることの恐ろしさも指摘している。
▲報道は「悪玉」を作りたがる。そのほうがわかりやすいからである。しかし、現実は物語のように単純ではない。本書でも、戦争広告代理店の暗躍を「告発」するやり方で、彼らの仕事をダーティーなものだと印象付けることもできただろう。しかし、そうしたフレームアップの仕方をできるだけ避けて、事実に近い報道をすること──著者自身が戦争広告代理店の取材を経て、再認識したであろうことを、忠実に守ろうとしていることがうかがえる。おすすめです。


2002/12/3/Tue.
▲晴れ。
▲オンライン書店でお買い求め出来ます(未入荷ですが、注文は受け付けています。近日中に入荷予定)→高梨豊著『ライカな眼』(毎日コミュニケーションズ)。ぼくが編集を担当した本です。企画の立ち上げが去年の10月だったので、1年以上かかってしまった。写真家の高梨豊さんへの連続的なロングインタビューを元にした自伝と撮影ノウハウ、加えて、高梨さんと荒木経惟、赤瀬川原平、南伸坊、鈴木八朗(元電通のアートディレクター)、田中長徳の各氏との対談を収録している。時間をかけただけのことはあったと自負しています。ちょっと高い本だけど、一回飲みに行くお金で買えるので(そういう意味で本てやっぱり安い)、ぜひ読んでみて下さい。よろしくお願いします。
▲写真家の吉野信さんと打ち合わせののち、慶応病院へ。安原顯さんの外泊のお手伝い(といっても、大したことはできなかったけど)。お見舞いに来た松本賢吾さんとK野さんといっしょに帰る。
▲人身事故の影響で中央線がストップ。バラバラになった遺体が取りにくいところに入り込んじゃったとか。新宿の予定を、渋谷経由吉祥寺に変更。デザイナーのSと、イラストレーターの近藤恵子さんに作品を見せてもらう。
▲安原顯著『日本はなぜ「こんな国」になったのか』(旬報社)。過去五年に書かれた人文社会系の書評からとくに現代の問題を知るうえで有用と思われる本についてのものを選んで編まれた。
▲安原さんの原稿は書評というよりもブックガイドで、本の内容で一番大事なところを読者に示し、その本と本が扱っている題材への興味を喚起する。文芸誌『海』、カルチャー記事の充実ぶりに定評があった『マリ・クレール』、書評誌『リテレール』などの編集者として名をはせた安原さんだけに、編集者的な眼力で選んだ本を読者に明確に伝えるというワザがあるのだ。そして、ヤスケン節ともいうべき、スピード感のある文章は、一度ページを開くと、しばらくは読みふけってしまう。新聞に載るような、いわゆるエライ先生たちによる書評とは真逆のポジションにある、イキのいいブックガイドだ。


2002/12/2/Mon.
▲晴れ。
▲ブローニー判(120)フィルムからベスト判(127)フィルムと16ミリフィルムを切り出すフィルムカッターを製造している、スタジオB.T.の深谷宏さんにお会いする。
▲「季刊クラシックカメラ」の次号でこのフィルムカッターを紹介しているのだが、ぼくが使っているフィルムカッターの新モデルが登場したというので、急遽記事内容を改めることになり、取材させていただいたのだ。
▲深谷さんはもともと機械設計のお仕事をされていて、フィルムカッターを作れないか? と相談されたのがきっかけで、各種フィルムカッターを作りはじめたのだとか。クラシックカメラは、すでに製造中止になったり、あるいはごく少量、少種類しか生産していないフォーマットのフィルムを使用する機種がある。そうしたカメラでどんな写真が撮れるのか、興味があるところだが、これまではダークバッグや暗室でフィルムをカットするという好事家だけの楽しみだった。フィルムカッターのおかげで、そうした楽しみが身近に感じられるようになったのは喜ぶべきことだ。
▲「季刊クラシックカメラ」の色校戻しと、来年1月下旬に刊行予定の季刊クラシックカメラminibook『使うベッサ』(赤城耕一著・双葉社)の打ち合わせで、あっと言う間に一日が終わる。
▲五十嵐貴久『リカ』(幻冬舎)。幻冬舎と新潮社が共同主催している第2回ホラーサスペンス大賞受賞作。出会い系サイトで知り合った女につきまとわれる──と書くといかにもありそうなサイコサスペンスで、まさにそのとおりなんだけど、常軌を逸した電波ぶりが読みどころ。望月峯太郎の名作『座敷女』(講談社)によく似ているが、こちらの主人公は中年男。「リカ」のキャラクターの描き込みがものたりないとか、なんとなくどっかで読んだような話だなとか、ケチのつけようはあるけど、読みはじめたら止まらない。この手の話は何度読んでも、やっぱり面白い。残念だったのはユーモアに乏しいところ。こういう、超現実的なストーカーの話には、どっか笑っちゃうところがあるべきだと思うんだけど。久しぶりに『座敷女』が読みたくなった。


2002/12/1/Sun.
▲晴れ。
▲家人と安原さんをお見舞いに。オンライン書店bk1に、編集長日記休載のメッセージをアップ。
▲新大久保界隈を歩く。新しい店の出現、リニューアルなど、刻々と変貌を遂げている。なかでも、B1がレンタルビデオ、DVD販売、1Fが食料品店、上の階には国際カラオケ(日本語、中国語、韓国語、タイ語、インドネシア語、ミャンマー語)という「アジアビル」が出現していることに驚いた。大久保通り沿い、新大久保駅と大久保駅の中間あたりにある。
▲「屋台村」とは似て非なる「屋台村 アジアン・カフェ」で夕食。ここも最近できた店だ。大久保通り沿い。メニューをよく見ると、旧屋台村に入っていた中華料理屋の名前が。「屋台村とは関係ありません!」というのがお店の人の弁。店内でかかっていたビデオは、なぜかハングルをローマ字表記にしたカラオケ。中文バージョンもあった。どういう人たちのためなのか、謎。
▲高木徹『ドキュメント戦争広告代理店』(講談社)をストップして、藤原和博『リクルートという奇跡』(文藝春秋)を読みはじめる。リクルートが急成長していく過程をつぶさに見、自身もそれに貢献してきた著者による、リクルートの栄光と転落、そしてそこからの再生を描く体験的ノンフィクション。タイトルだけ見ると、いかにもうさんくさいビジネス書風だが、筆致は誠実。著者はリクルート「フェロー」として深夜番組にテリー伊藤らと出演していた(現在は退職)。ぼく自身、就職情報業界に身をおいたことがあるので、とくに前半は懐かしさもあって面白かった。「元リク」とぼくたちが業界で呼んでいた、リクルートのOB・OGたちは、なぜさまざまな業界で活躍できたのか? リクルートマンシップというべきその精神と仕事のやり方を明らかにしているところが読みどころ。
▲昨日NHKで放映した番組「美と出会う」をビデオで観る。写真家の高梨豊が、写真集『地名論』(毎日コミュニケーションズ)で撮影した場所を歩き、写真集制作時からさらに変貌を遂げた東京の様子を撮影する。そのルポを通して、高梨豊の都市へのまなざし、ひいては写真論が浮かび上がるという仕掛け。しかし、高梨さんの言葉の断片は、予備知識のない人には少し難しいんじゃないかと思う。そんなわけで、高梨豊の写真論を知るためには、『ライカな眼』(毎日コミュニケーションズ・全国書店で発売中、のはず。まだ本屋で実物を見ていませんが)をおすすめします。


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