A DAY IN MY LIFE

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2003/03/31/Mon.
▲*21日以来の更新になります。更新できなかった理由は以下の日記でお察しいただくとして……。
▲起きられず。どんよりした気分で朝食。右胸から肩にかけて鈍痛。
▲毎朝、少しずつ読んでいた関川夏央『戦中派天才老人・山田風太郎』(マガジンハウス)、最後まで読み終わってしまった。「終わってしまった」というのは、「鳩よ!」に連載されていたせいもあって、一回ずつ読むリズムに合っていたからだ。好きなテレビ番組が終わってしまった感じというか。山田風太郎の半生について知ることが多かったが、個人的には江戸川乱歩についての件が面白かった。戦前と戦後で乱歩の性質が変わった理由を、乱歩の「禿げ」に求めている山田風太郎独特の人間観察が面白いからだ。本書は新刊の時に買ってうちの本棚のこやしになっていた。その間に山田風太郎は鬼籍に入り、すでにちくま文庫版がでている。
▲経費計算。どうりで金がないはずだと得心がいく。体調悪し。
▲赤坂TBSで対談の司会。アイディアカウンセリングセンター主宰の浮世満理子さんと、TBSドラマプロデューサ−伊藤一尋さん(『高校教師』『人間・失格』『聖者の行進』『若葉のころ』『青の時代』『サマースノー』ほか)との対談。今回が3回目。過去2回は伊藤さんの新作ドラマのお話を中心にうかがったが、今回は浮世さんのリードで手がけられたドラマの全般的なお話を。「伊藤さんのドラマには人間関係のぬくもりを感じる」という浮世さんの言葉に対して、伊藤さんは「登場人物の温度が感じられるドラマは成功したドラマ」「なんでもない日常をしっかり描けたときの満足感が大きい」との答え。伊藤さんのドラマに対する考え方は実に正統的。「セラピスト」誌(BABジャパン)のための対談。
▲編集者Sとトーク。「食べていくこと」の難しさについて。ここにも戦場が……。
▲新宿から歌舞伎町と新大久保を横断して高田馬場kupukupu。かっこいいおかあさんと娘さんがやっている店なのだが、久々に訪れたら赤ん坊が増えていた。うちの近所の聖母病院で生まれた由。奇遇。
▲高田馬場駅近くの漫画喫茶で日記更新。


2003/03/30/Sun.
▲久々のオフ。だるい。うちから歩いて新宿御苑。花見である。途中、伊勢丹クィーンズシェフでワインなど買ってみる。昨年に引き続き、グラフィックデザイナーOさんの凝りまくった料理がお重に入っている。ところが、この花見、どういうわけか、俺とOさんの二人だけ。すぐ近くにゲイカップルの仲睦まじい姿が。というか、俺たち、どう考えてもゲイカップルにしか見えない。男二人で弁当を広げ、お重に美味しそうな料理。どんよりとした気分に。
▲途中から、行きつけの飲み屋の花見に合流。御苑の閉園時間後、お茶して、TSUTAYAでビデオを借りて帰る。途中、マツケンさんから電話。「HPの日記、更新されてないけどどうしたの?」。すんません。気にかけていただいているのはすごくうれしい。思えば、メールマガジン【アルカリ】を出し始めた当初は、長く発行されなかったら一人暮らしの部屋を訪ねてくれ……という意味もあったのだ。感謝と陳謝。
▲帰宅したのは8時。猛烈な眠気に襲われ就寝。ところが2時に目がさめてしまい、借りてきた『慕情』を見る。香港を舞台にしたラブストーリー(なのか?)。話はぬるいが、監督が珍作『キリマンジャロの雪』の監督ヘンリー・キングなので、トンデモぶりを楽しむ。途中まで見て、眠くなったので寝る。


2003/03/29/Sat.
▲「清流」誌(清流出版)の原稿「奈良原一高インタビュー」を書き上げて送付。
▲重い身体を引きずって『サンダー平山の大口径レンズ主義!』(極上カメラ倶楽部Vol.2 双葉社・4月18日発売予定・1400円税込み)の最終入稿。一転、二転した表紙も見事に着地。デザイナーの梶浦孝博さんに感謝。無事校了後、校了ゲラ一式を抱えて藤沢のサンダー平山さん宅にお邪魔する。あらためてゲラを見ながら、雑談。自分としては全力を尽くしたつもりなので、ささやかな満足感を覚える。サンダーさんもそれなりに満足してくれた様子。今の時点ではかなり面白い本になった……と思っているが、こればかりは本屋に並んでみないとわからない。
▲辛酸なめ子『千年王国』(青林堂)。この本をちびちび読むのがここ数日の楽しみだった。世間のトレンド、チャラチャラしたもの、スカしたものに対する悪意のこもったユーモア爆弾。辛酸なめ子の立ち位置がとても好きだ。


2003/03/28/Fri.
▲『サンダー平山の大口径レンズ主義!』(極上カメラ倶楽部Vol.2 双葉社・4月18日発売予定・1400円税込み)の印刷入稿一直線。あらかた終わる。このへん、あまり記憶がはっきりとしていない。睡眠不足による健忘症。いろいろなものがなくなって、探しているだけで時間が経つ。脳病院で編集作業をしている気分に。この日覚えていることといえば、ようやく印刷に入れられる分を入れて、夜歌舞伎町で食べたタレいらず焼餃子、揚げナスのごまソース和えなどの料理がやたらと美味だったことぐらいしか……。


2003/03/27/Thu.
▲始発で帰宅。着替えて編集部へ。聞き書きした分の原稿をまとめる。午後からデザイン修正。ゲラ→校了へと進む。表紙の件で問題が起こり茫然自失。軽く殺意を覚えるが、いま考えるときっと疲れていたんだろう。気を取り直して、明日からの最後のツメをがんばろうと思う。


2003/03/26/Wed.
▲始発で編集部。昨夜撮影したカメラ、レンズのデータを画像処理し、遅れていた自分の原稿(サンダー平山さんへのインタビュー、撮影レポート)をなんとか書き上げ、デザインに渡す。
▲『サンダー平山の大口径レンズ主義!』(極上カメラ倶楽部Vol.2 双葉社・4月18日発売予定・1400円税込み)の追い込みが続く。サンダー平山さん宅で足りない原稿の聞き書き。終電がなくなり、夕べに引き続き藤沢駅近くのサウナに宿泊。ついこのあいだ、徹夜続きだという某誌の編集者Tさんの仕事ぶりに驚いたことが思い出される。なんのことはない、自分も似たようなことをやっている。もしかすると、すぐ枕もとにTさんの生霊が……とハッと目がさめる。


2003/03/25/Tue.
▲『サンダー平山の大口径レンズ主義!』(極上カメラ倶楽部Vol.2 双葉社・4月18日発売予定・1400円税込み)、足りない原稿、足りない写真の手当て。。サンダー平山さん宅へうかがい、カメラ、レンズの撮影をしながら、原稿のツメを。
▲終電がなくなり、藤沢のビジネスホテルに泊まろうとするも、何軒か回った結果、どこも満室。小雨。思い出すのは、学生時代にテヘランでホテル探しをした夜のことである。寒かった。片端から断られ(外国人を泊めたがらない宿が多かった)、十数件目にやっと泊めてもらえた。旅の思い出というと、そういう情けない体験のほうが生々しい。
▲結局飲み屋と風俗店が密集する一角にあるサウナ「湘南」で仮眠。サウナに泊まるのもずいぶん久しぶりだ。疲れきったオヤジたちのパラダイス。客は少なく、思いのほか快適。温泉に浸かり、毛布にくるまって、いびきが響き渡る仮眠室で寝る。自分の神経が雑にできていてよかったと思える時間。


2003/03/24/Mon.
▲いったいどんな一日だったのか。まるで覚えていない。きっと働いていたんだと思う。


2003/03/23/Sun.
▲昨夜聞き書きした『サンダー平山の大口径レンズ主義!』のキャプションは、持参したノートパソコン(パナソニックのレッツノートシリーズ。型番忘れた)に入力したのだが、そのノートパソコンに電源が入らない。卒倒しそうになるが、とりあえず、サービスステーションに電話。オペレーターのおねえさんは、こちらの質問ごとに「保留」して、誰かに聞きに行ってくれる。しかし結論はゆらぐことなく「買った店に修理に持っていってください」とのこと。データ救出サービスもありませんとにべもない。東京砂漠。しかし、まあ、機械なんてそんなものだと思う。
▲あきらめかけていたが、気まぐれに、ACアダプターの電源をつなぎなおしたら、電源が入った。慌ててフロッピーディスクドライブをつなぎ、FDにデータを吸い出す。助かった。そして、こののち、もう一度パソコンはダウン。奇跡の生還。しかし、考えるにACアダプターがいかれているだけなんだろう。パナソニックによれば、ACアダプターの「換え」を用意しているサービスステーションもあるとのこと。しかし、そのサービスステーションは土日休み。ようするに役に立たないということだ。まあ、パソコンに依存する仕事の仕方をしている当方に問題があるってことで、便利なものには落とし穴があるということなのだ。


2003/03/22/Sat.
▲『サンダー平山の大口径レンズ主義!』(極上カメラ倶楽部Vol.2 極上カメラ倶楽部Vol.2 双葉社・4月18日発売予定・1400円税込み)のポジ入稿を孤独のうちに終える。
▲その後の記憶が途絶えている。あいまいな記憶だが、サンダーさんのご自宅へうかがい、すべての作品についてのキャプションを聞き書きしたのかも。それに、ブツ撮りも。いや、そうだった、たしか。危うく終電を逃すところだったがセーフ。


2003/03/21/Fri.
▲晴れ。
▲極上カメラ倶楽部『サンダー平山の大口径レンズ主義者!』(双葉社・4月18日発売予定)に掲載する「撮影レポート」のために、デジカメで撮った写真の整理。時間がかかってしょうがない。明日のポジ入稿用のゲラデータをデザイナーKさんから受け取る。
▲大久保「料麺館」で、ある飲み会。


2003/03/20/Thu.
▲晴れ。
オンライン書店bk1で打ち合わせなど。
▲ブルボン小林『ブルボン小林の末端通信』(光文社カッパブックス)。ブルボン小林は芥川賞受賞作家の別人格(ネットで検索すれば正体はすぐ分かる)。ウェブ制作者のたに書かれたコラム集である。いくつもの小ネタ、気の利いた注釈など、枝葉末節にこだわりを見せる著者のスタイルが魅力。「カッパブックス」という体裁そのものが著者のたくらみであり、それは本名で書いている小説にも通じる遊び心である。この人は、本当に本が好きなんだなあ、と思う。ネット関連の本としては確信犯的な珍品。入手困難になる前に入手しておくべし。
『ぴあオペラワンダーランド』(ぴあ)。大学時代にお世話になった林田直樹さん(音楽評論家、編集者)が監修したオペラの本。著名人インタビュー、初級者〜上級者向けのオペラ作品の解説、海外でのオペラの楽しみ方など盛りだくさんの内容。情報誌的なスタイルの本は、自分が性格的、能力的に作れないので、いつもただただ感心してしまう。しかもこの本の場合、情報以外の一見無駄な部分(本の作り手から見れば贅沢な部分)に頭と時間が使ってあって、オペラに無縁のぼくでも楽しく読むことができた。大判で図版が多く、ちょっとオペラに興味のある人にはとてもいい本だと思う。
▲村松友視『時代屋の女房・泪橋』(角川文庫・絶版)読了。図書館で借りて読んだ。「時代屋の女房」は安さんと真弓という、ヤスケンご夫婦の名前を借用した作品。時代屋は骨董品屋。とつぜん店に現れた真弓と夫婦になった安さん。しかし、真弓はときどきぷいといなくなってしまう。しかし7日間後にはいつも戻ってくる。果たして今度は戻ってきてくれるだろうか……。こう一編の「泪橋」は、十年前、鈴が森刑場近くの家にかくまってもらった男がその家を再訪すると、そこに訳ありげな女がいて……というお話。いずれも、世間とズレ、どっかに消えてしまいたいというささやかだが粘っこい欲求を抱えた男と女の物語。
▲極上カメラ倶楽部『サンダー平山の大口径レンズ主義者!』(双葉社・4月18日発売予定)の初校直しに呻吟。なんとかかっこうをつけてデザインに差し戻す。うまくいくかどうか心配。
▲アメリカのイラクへの空爆が始まった。


2003/03/19/Wed.
▲晴れ。
▲終日、サンダー平山さんの撮影に同行。藤沢スタートで、結局箱根まで。帰りはロマンスカーで。旅気分。
▲村松友視『雷蔵好み』(発光:ホーム社/発売:集英社)読了。早世した俳優市川雷蔵の評伝。
▲雷蔵といえば、亡くなってからずいぶん経つのに人気が衰えない。気合いの入ったファンページもある(村松友視さんへのインタビューもあり)。ぼく自身、高校生の頃にテレビでかなりの数の雷蔵映画を見ているし、その後、大学時代以降、何度も特集上映されており、ユーロスペースやシードホールで見た記憶もある。ぼくは大映映画が大好きで、とくに「カツライス」と呼ばれた、勝新太郎(カツ)と市川雷蔵(ライ)(ス)の全盛時代の映画をよく見ていた。よく、と言っても、この二人が出演している映画は膨大な量にのぼるから、その数分の一を見ているにすぎないだろうが。
▲雷蔵についてはいくつもの評伝が出ているが、村松友視のようなプロの評伝作家の手になると、また新たな視点が加えられることになる。タイトルの『雷蔵好み』とは「雷蔵スタイル」くらいの意味だ。つまり、雷蔵の生き方のセンスのようなものを明らかにしたかったということなのだろう。
▲雷蔵が今に至るまで衰えない人気を誇るのは、その容姿、立ち居振る舞いの美しさもさることながら、主演作に秀作が多いからだ。雷蔵自身がプロデューサー的センスを持っていたことが本書でも書かれているが、著者が指摘するように雷蔵ほど多彩な役を演じて、それが成功している時代劇役者が珍しいことも大切な要素だ。ニヒルな机龍之介(『大菩薩峠』)や眠狂四郎(柴田練三郎原作)を演じるかと思えば、コメディータッチで若侍を演じたり、『好色五人女』のような町人もひょうひょうとこなしている。歌舞伎出身なので時代劇が本領だろうが、その一方で『ぼんち』『炎上』(原作は三島の『金閣寺』)『ある殺し屋』『陸軍中野学校』のような現代劇での演技も自在にこなしている。37歳という若さで亡くなったとは思えないほど幅広い役柄をこなしている。しかも、すっぴんの本人は、町ですれ違っても雷蔵とはわからないくらい普通の印象だったらしいから、雷蔵の存在はミステリアスだ。なおかつ、雷蔵が持っている独得の「影」がその存在を際だたせていた。
▲『雷蔵好み』では市川雷蔵の生涯を時系列で追いながら、出生の秘密、複雑な生い立ち、日本映画の黄金時代、雷蔵と勝新太郎との友情などのエピソードを綴っていく。雷蔵ファンにとってはすでによく知っているエピソードが多いかも知れないが、まったく雷蔵についての知識がない人にとっては格好の入門書だろう。ぼく自身はすでに絶版となった田山力哉『市川雷蔵 かげろうの死』(教養文庫)の印象が強く、とくに出生のくだりについて、田山力哉の「推理」が正しいのかどうかを検証して欲しかったような気もするが、映画俳優市川雷蔵の光と影を鮮やかに浮かび上がらせることに腐心している本書の趣旨とはマッチしないエピソードなのかもしれないとも思う。それはともかく、この本をきっかけに雷蔵の映画を見てみたいと思う人も多いのではないか? 久しぶりに『薄桜記』や『斬る』、『ぼんち』が見たくなった。
▲就寝前に『JAZZとオーディオに魅せられた男のワンダーワールド〜まるごと一冊・寺島靖国(オントモ・ムック・オーディオ)』(音楽之友社)を読みはじめ、寝るのが惜しくなる。吉祥寺のジャズ喫茶Megのオーナーであり、ジャズ評論家、オーディオ評論家でもある寺島靖国さんの「まるごと一冊」本。安原顯さんとの対談や、自身のジャズ遍歴、オーディオへのこだわりなどが、多角的に明らかにされる。この手の本の大事なことは、ご本人のキャラが立っていること、その周りにいる人たちが面白いこと。この本はその二つを満たしていて、寺島靖国入門書としても、ファンブックとしてもよくできている。寺島さんのジャズへの愛、オーディオへのこだわりがそのキャラと相まって「面白い!」と思わせてくれるからだ。ジャズの門外漢にも楽しめる。


2003/03/18/Tue.
▲晴れ。
▲忙しかった一日。その合間に30分くらいで當麻妙のホームページを作ってみる。5月に新宿ニコンサロンで写真展を開く新進写真家。あとは本人が更新すると思われるので、ご期待下さい。
▲デジカメは一見便利だが、撮影したデータを整理、修正を加えるとなるとかなりの時間を食う。パソコンの動作の遅さにも、ストレスを感じる。無間地獄のはじまり。
▲米ブッシュ大統領が演説。イラクフセイン大統領に最後通牒を突きつけた。戦いに勝利しても、イラク国民は米英への恨みを忘れることはないだろう。イラクを武装解除させたら、憲法に軍備の破棄をうたわせて、米イ安保条約を結ぶつもりか。しかし、中東の人たちが簡単にアメリカ式ご都合民主主義になびくとは考えられない。戦争とテロの連鎖は続くだろう。そんなに殺し合いがしたいなら、ブッシュとフセインが勝手に殺し合えばいい。
▲安原顯『乱読すれど乱心せず』(春風社)。故人の最期には間に合わなかったが、待たせただけある端正な本。編集を担当した春風社の内藤くんはお肌すべすべの若い編集者。大学で木田元先生のもとで哲学を学び、春風社に入社したという経歴の持ち主。膨大なCDを持っているジャズファンでもある。同じく安原さんの『ハラに染みるぜ!天才ジャズ本』(春風社)がボリュームたっぷりの力業だとすれば、『乱読すれど乱心せず』は隅々まで気を配った端正な仕事ぶり。天才ヤスケンの最後の本(あとがきを最後まで何度も赤字を入れていたと内藤君が言っていた)にふさわしい。
▲フランス装の凝った装幀は『ハラに染みるぜ!天才ジャズ本』に引き続き、若き天才デザイナー矢萩多聞さん。安原さんのピュアな魂が結晶したようなデザインだ。シンプルかつユーモラスな装画は山本容子さん。オビにコメントを寄せている村上龍、田中康夫、よしもとばななをはじめとして、錚々たる人たちからの「ヤスケンへのメッセージ」も収録されている。肝心な中味は、安原さんが幻冬舎のPR誌「星々峡」に連載していた文庫の名作を紹介した原稿を集めたもの。ヤスケンと言えば罵詈雑言というイメージかも知れないが、その実、旧著への愛情も忘れなかった。書評本シリーズでも常に一章を割いていたが、この本ではそれを一冊にまとめている。また、ヤスケンといえば仏文のイメージが強い向きもあるかもしれないが、本書に取り上げられている本はすべて日本の作家。したがって、それぞれの作家たちとの思い出、印象が枕に振られていて、そこだけ拾い読みしても十分に面白い。ぜひ読んで欲しい。猛烈に本が読みたくなりますよ。


2003/03/17/Mon.
▲雨のち曇り。
▲新宿税務署で確定申告。最終日に滑り込むダメ人間で充満したフロア。大声で保険外交員のおねえさんを叱りつける太った相談員のおやじ。二言目には「分かりませんよ! 私にそんなこといわれても!」。こういうやつを懲らしめたりする事ってできないんだろうな。あげく、相談にきたおじいちゃんと激突、「その言い方はないだろう! こっちは税金払いに来てるんだぞ!」。相談員、書きかけの申告書、破ってるし。そのおじいちゃん、源泉徴収票をなくされたと騒ぎだし、ほかの税務署員に連れられて奥へ消えていった。そのまま姿を現さなかった。消されていないといいけど……。新宿税務署、恐ろしいところだ。しかし、締め切り直前の確定申告にきた人々は、そんな人ごとにかまう余裕もなく、電卓を叩いているのだった。
キャメルスタジオ。ちょっとした仕事。原稿を受け取る。


2003/03/16/Sun.
▲曇り。
▲吉祥寺Megで安原顯さんの追悼CDコンサート。安原さんゆかりの人々とファンが集まり、持参したCDを聴くという催し。安原さんとはあまり音楽の話はしたことがなかったし、たまにしても、ぼくにはチンプンカンプンだったのでアーティスト、曲名など、まったく覚えていない(安原さん、ゴメンナサイ)。唯一、若きヴォーカリスト、小林桂のことを絶賛していたことを覚えていたので、リクエストしてかけてもらう。小林桂から、この日のために追悼のファックスが寄せられており、読み上げられた。また、やはり安原さんが買っていたピアニストのアキコ・グレースさんが駆けつけてくれ、2曲(インプロビゼーション、「オーバー・ザ・レインボウ」ほかのメドレー)弾いてくれた。仕切ったのは蒲田のジャズ・ラーメン屋「元気亭」のご主人。次はラーメンを食べに行こうということに。ほかに、ガッツ・プロの笠井さんほか、安原さんの日記でおなじみの方々とお会いすることができて感激。隣の「中華街」(と・u毆)・w)いう中華料理店)に流れて、深夜まで。


2003/03/15/Sat.
▲雨(湘南方面)のち曇り。
▲終日、湘南方面で撮影。サンダー平山『サンダー平山の大口径レンズ主義者!』(4月18日発売予定・双葉社)の口絵用。モデルはサンダーさんの写真の被写体としておなじみの福山理子さん。撮影中のサンダーさんの様子をレポートするために、昨日買ったデジタルカメラを使ってみる。あいにくの天気で、来週、もう一度撮影することに。
▲大野明子『分娩台よ、さようなら』(メディカ出版)。自身の出産経験をきっかけに、博士号まで取った地球化学の研究を止め、医学部に入り直し産科医になった著者の啓蒙書。タイトルにうたわれているように、病院での出産の不自然さを指摘、自ら実践している自宅出産、新たに設立した「お産の家」について書いている。こういう本は、そういうことに関係することになった人しか興味を持たないし、読まないと思うが、そういうことに遭遇した機会にはぜひ読んだほうがいい本だと思う。実に理にかなったことがかいてある本で、この本の通りに自宅出産するかどうかは別にしても、その魅力は十分に理解できる。病院での出産に問題が多いことにも納得がいく。また、収録されている写真(撮影は写真家の宮崎雅子)も秀逸。自分の頭で考えて、自分の眼で見て、五感で感じることの大切さをも感じさせてくれる。
▲『分娩台よ、さようなら』のことは、かみぞの整体のホームページで知った。整体には行ったことはありませんが、ホームページは面白いです。感謝。


2003/03/14/Fri.
▲晴れ。春めいた陽気。夜、まだ寒い。
▲仕事用にデジタルカメラ(オリンパスC5050)を購入。
▲映画『トラ! トラ! トラ!』(1970年・米)。真珠湾攻撃の顛末を日米双方の視点から描く大作。米側は職人監督リチャード・フライシャーが監督し、日本側は深作欣二、舛田利雄という、東映と日活それぞれのエース。ちなみに当初は黒澤明が監督する予定で、脚本(ラリー・フォレスター、菊島隆三、小国英雄)も日本側は黒澤組だ。
▲真珠湾攻撃といえば、『パールハーバー』(2001・米)というとんでもない映画があったが、二本を比べると、ハリウッド映画がいかに陳腐になったかがよくわかる。『トラ! トラ! トラ!』は傑作でもなんでもないが、視点を戦争当事者の両国におき、いかにしてこの攻撃が起こったかを冷静に描いている。日本側は軍部の暴走、米側は官僚的なシステムによる対応の遅れが指摘される。東条英機を悪役風に、連合艦隊を率いた山本五十六を悲劇の名将として描くなど、思想的な背景は米製の民主主義に基づいているので、歴史的な解釈としてはスリルに乏しいが、反面、戦闘機をよく飛ばしていて、CGのない時代としては迫力のある画が撮れている。『パールハーバー』では、真珠湾でやられっぱなしではカタルシスがないと、無理矢理東京大空襲での「勝利」で物語を結んでいるが、『トラ! トラ! トラ!』のラストのほうが皮肉で余韻が残る。
▲旧友Mと新宿で会う。時の流れをあまり感じずにつきあえるというのは幸せなこと。
▲内田春菊『私たちは繁殖している イエロー』(角川文庫)。シリーズ第一作。内田春菊は好きで、わりと読んでいるほうだが、このシリーズには興味が持てず読んでいなかった。読んでみると、もちろん、面白い。事実とネタをうまく配合して、なんとも奇妙な味わい。魅力的。


2003/03/13/Thu.
▲晴れ。春めいた陽気。夜、まだ寒い。
▲濃い一日。
▲新宿で出版社の編集者Kさんから同僚のNさんを紹介してもらい、仕事以前の自己紹介レベルの話など。いざ人に説明しようと思うと、今までやってきた仕事の支離滅裂、節操のなさに赤面する。二人とも実に愛想良く、同時に、どことなくドス黒いものを秘めていそう。とても魅力的な人たちで、見習いたいと思った。約束の時間を1時間間違えてしまう。無呼吸症候群で脳細胞が死滅しているのかも、と恐怖。というか、お忙しい時間を割いていただいたお二人に陳謝と感謝。
▲レイアウト変更中のデザイン事務所に寄る。
▲四谷三丁目で会社員時代の同期I川にバッタリ。「似てるけど、妙に若いから別人か」と思っていたら本人。笑った。
▲写真家の中里和人さんと御茶ノ水で打ち合わせ。『小屋の肖像』(メディア・ファクトリー)、『キリコの街』(ワイズ出版)などで知られる中里さんは、日本各地、トルコなどでインスタレーションを含む写真展を開いている。写真集しか知らなかったぼくに、その活動の一端を詳しく説明していただき、あっと言う間に時間が過ぎた。
▲中里さんの手法は、廃工場や廃屋、あるいは自作の「小屋」を展覧会場として、記憶をまとった古い「モノ」たちと、中里さんが風景の中から見つけだしてきた時空間から遊離した写真を展示するというもの。そこには余白のような空間があり、集まってきた人たちが雑談してもいいし、ポエトリー・リーディングやダンスなどのパフォーマンスがあってもいい。作られた少女の部屋を「のぞき見」したり、見せ物小屋をしつらえてみたりと、いかがわしさをも引っぱり込んでいる。
▲いろいろと話を聞いて、写真の「見せ方」について考えさせられた。ギャラリーでの個展、写真集……そういう「見せ方」が写真をつまらなくさせているのではないか。写真と文章がクロスしたり、パフォーマンスが入ってきたり、という手法は写真の発生からはじまった古典的な手法だが、そういう雑駁なムードの中で育ってきたはずの写真のはずなのに、いつの間にかこじんまりとした箱の中に入ってしまったような気がする。写真の「遊び方」をもっと考えなくては……と思う。


2003/03/12/Wed.
▲晴れ。強風。寒い。
キャメルスタジオ。仕事の話。
▲サンダー平山さんへのインタビュー。極上カメラ倶楽部『サンダー平山 大口径レンズ主義者』(双葉社・4月18日発売予定)のためのもの。「写真機家サンダー平山ができるまで」といった内容。
▲辛酸なめ子『自立日記』(洋泉社)読み終わってしまい、寂しい気持ちに。
▲雨宮処凛『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)読了。北朝鮮へ5回、イラクへ一回行ったことのある元憂国パンクバンド「維新赤誠塾」のメンバーの旅行記。雨宮処凛といえば、読者に向かってダイブしたかのごとき印象のあった『生き地獄天国』(太田出版)が強烈だったのだが、『悪の枢軸を訪ねて』にあのアクの強さはない。うろおぼえだが、『生き地獄天国』では北朝鮮礼賛ともとれる感想を「民族派」の立場から書き、右へ左へと揺れ動くダメな自分を激白していたはず。しかし、『悪の枢軸を訪ねて』では第一回目の旅行から、北朝鮮に対して「後味の悪い謎」をずーっと感じ続けていたということになっている。したがって、よくある「北朝鮮はヘンな国」という感想記になっている。イラクのほうは「反米」マスコミがよく書いているような内容。というわけで、退屈な内容だった。かなり失望。北朝鮮について、イラクについて、勉強した結果を書くのならふつうのマスコミのジャーナリズムと変わらない。顰蹙を買っても言いたいことを書くのがこの人のキャラかと思っていたら、いつの間にか常識ある大人になっていたということか。いっそ、ゴスロリ(ゴシック&ロリータ)の格好で北朝鮮やイラクを歩き回っている雨宮処凛をルポした写文集にしたほうが面白かったんじゃないかとよけいなことを妄想。


2003/03/11/Tue.
▲晴れ。強風。寒い。
『チーズプラザ』(メディアセレクト・3月25日発売)色校戻し。
▲写真機家サンダー平山の大口径レンズレビューでまるまる一冊というムック、極上カメラ倶楽部『サンダー平山 大口径レンズ主義者』(双葉社・4月18日発売予定)のデザインへの入稿など。「CAPA」の黄金時代を担ったカメラマンであり、カメラ、レンズのレビュアーでもあるサンダー平山さんの作品と、カメラ、レンズへの思いを深く濃く注入するつもり。この日も片瀬山のご自宅近くのデニーズで打ち合わせ。本の「重み」とは、作る人間(著者、編集者、デザイナーetc.)の思いだから、限られた時間の中でどれくらい盛れるかが勝負かなあ、と。
▲行き帰りの電車の中で村松友視『鎌倉のおばさん』(新潮文庫)読了。暢気なタイトルだが、内容は濃い。
▲村松友視は父を生まれる前に亡くし、祖父で作家の村松梢風(『正伝清水次郎長』、『近代名勝負物語』『女経』など)の息子として入籍され、祖母のそうに育てられる。梢風は色好みの作家として知られ、そうとの籍はそのままに女性遍歴を続けるが、中でも絹江との仲は、戦後、絹江に「奥様」と称させてはばからないほどだった。そうは孫の友視の養育を任せられ、月々の仕送りと、年に何回か梢風の訪問を受けるほかは、清水の家でひっそりと暮らしていた。梢風は鎌倉に絹江と300坪という豪邸を構え、死ぬまでそこに暮らした。絹江は虚言癖のある女性で、本妻の地位を要求しないまま、「奥様」としてふるまった。友視にとって「鎌倉のおばさん」だった絹江は、フィクションを語る人だった。それは、村松梢風という破格の人物を中心に、村松家が崩壊をせずに成り立つために必要なものだった。そして、村松家の世間とズレた、フィクションという毒を吸って成長した友視もまた、虚構の中に自分の立ち位置を見つけ、ポーズを取る人生を選んでいった……。
▲家族の物語はそれぞれに悲喜こもごもがあり、因縁があり、人情がありと面白くなる要素は尽きないが、それを扱うワザによって、面白くもなり、つまらなくもなる。『鎌倉のおばさん』はまぎれもなくプロ作家の熟練した筆によって描かれた家族の物語で、読み応えがある。かつ、一読者でしかない自分も、これまで見聞きしてきた家族のありようの裏側にある闇について思いをはせずにはいられなかった。
▲辛酸なめ子『自立日記』(洋泉社)を途中まで。読みはじめると止まらない。タイトル通り、WEB日記(「女・一人日記」)を単行本にしたものだが、書かれている話題の一つひとつと、話題に対する著者のネガティブな反応が面白くてたまらない。自費出版の小冊子『サーヤと私 Saaya&Me』(著者がソウルメイトと慕う皇太子の妹との交遊を妄想で展開した爆笑マンガ)以来の大ファンだが、ファンといいながらその存在をすっかり忘れていた。しかし、たまに読むとどれもこれも強烈に面白い。しかし、この人の文章やマンガを楽しんでいる自分は相当に根深くダメな奴なんじゃないか? と自問したくなる。著者のバスタオル美女口絵あり。おすすめ(誰に?)。


2003/03/10/Mon.
▲晴れ。強風。寒い。
▲銀座キヤノンサロンで横木安良夫写真展「時空・ベトナム」。ベトナムで横木さんのガイド役を務めたこともあるノンフィクションライターの神田憲行さん(著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』ほか)の紹介でオープニング・パーティーにまぜてもらう。
▲タイトルの通り、ベトナムで撮影された写真。雑誌、テレビの取材などでベトナムを訪れた際に撮影されたものとのことで、美人歌手、女子高生から、屋台、市場界隈の風景など、点数は多くないが、一枚一枚が大伸ばしされているので、細部を見る楽しみがある。デジタル一眼レフカメラ、キヤノンD60によるデジタル写真をキヤノンの写真画質プリンターで大きく伸ばしたもの。銀塩写真と比べると、エッジのにじみに独得のノイズが生じてしまうので、近づいて目を凝らすとやや幻滅。しかし、銀塩と比較するという根性を捨てれば、比較的ローコストで大きく伸ばせるなどのメリットはあるし、重箱の隅をつつくような見方をしなければ十分にきれいだ。またデジタル的な色再現などが向く写真もあると思う。横木さんの写真の場合、現在進行形で変わりつつあるベトナムという国のダイナミズムと、やや映像の再現性に隙のあるデジタル画像はマッチしているような気がした。「未来のように懐かしい」という、そういう感じ。
▲横木さんの最近の機材は、デジタル一眼レフと4×5のカメラというスタイルだとか。つまり、35ミリ程度のフィルムサイズの撮影ならデジタルでこなす。それ以上のサイズが欲しい場合は思い切って4×5という落差のある組み合わせである。私見では、早晩、35ミリフィルムの市場はデジカメに取って代わられ、銀塩にこだわる人はブローニー以上のフィルムを使うようになるのではないかと思っている。そんなこともあらためて考えさせられた。
▲神田さんとミュンヘンで一杯飲んで帰宅。『チーズプラザ』(メディアセレクト・3月25日発売)色校チェック。


2003/03/09/Sun.
▲晴れ。強風。
▲上野東叡山東漸院で安原顯さんの49日法要。鶯谷駅すぐの寛永寺墓地のお墓に納骨。その後、伊豆栄で夕食会。親戚の方々、安原さんの高校時代、大学時代の友人のほかに、村松友視さん、松本賢吾(マツケン)さん、幻冬舎の見城徹さん、双葉社の草野頼子さん、音楽之友社の田中モトヒロさん、安原さん晩年の三部作の編集を担当した井上俊子さんが出席。にぎやかな宴席になった。
▲村松さんが「海」編集部時代の安原さんを描いた評伝を書いて幻冬舎から出す、という話はお葬式の前後に聞いていたのだが、早くも原稿を書き上げたという。刊行は5月頃になりそうだとか。もちろん、オンライン書店bk1でプッシュしてもらうつもり。村松さんと見城さんに、インタビューなり、コメントなりでご協力いただくことをご快諾いただく。
▲マツケンさん、草野さんと上野でもう一軒。
▲映画『大日本帝国』(1982年・東映)をビデオで。『昭和の劇 映画脚本家笠原和夫』(太田出版)を読んでさっそく見たくなった。シンガポール攻略が物語の発端。アジアを開放するという理想を胸に進軍する日本軍が、開放してやるはずの地元華僑の義勇軍からの抵抗に遭う。しかし、結果として東南アジアの占領に成功した日本軍は勢いづき、米軍を甘く見る。しかし、ミッドウェー海戦での大敗。そして、その情報を海軍が囲い込み、首相の東条英機にすら知らされていなかった……というあたりから、敗戦への道をひた走ることになる。そして、南洋の島々での「玉砕」が続く……。三浦友和の青年将校、床屋の一等兵あおい輝彦、キリスト者の将校篠田三郎と、大和魂を標榜する下士官西郷輝彦らが登場する最前線と、丹波哲朗演じる東条英機の葛藤を描く。タイトルからの連想か、公開当時は「日本の右傾化の象徴」とやり玉に挙げられた作品だが、いま見てみると、右も左もなく反戦映画という印象。反戦とはつまり、大本営があって、将校がいて、下士官がいて、最前線があるというヒエラルキーの残酷さ、理不尽さの告発である。劇中、「天皇陛下も戦争へ行くのか」という意味のセリフがある。この言葉に戦争の矛盾がすべて込められている。
▲ところで『大日本帝国』をいまビデオで見て、映像的にはがっかりしたというのも正直な感想だ。理由は、肝心の戦闘シーンの少なさその平板な描かれ方と、戦争の推移を説明する演出がワンパターンなところ。テレビの歴史バラエティーや、ハリウッドの戦争映画のCG乱れ打ちを見慣れてしまったからか、物足りない。人間ドラマの演出も、やや散漫な印象。そのへん、見ているこちらの目が肥えてしまったのかとも思うが、当時、日本映画の凋落がすでにかなりのところまで進んでいたんだなと思う。60年代頃までの日本映画は監督の別に関わらず、もっと人間ドラマが粘っこい。


2003/03/08/Sat.
▲晴れ。
▲映画『猟奇的な彼女』を新宿シネマスクエア東急で。とても面白かった。久々によくできた青春映画を見たという感じ。酔っぱらって地下鉄のホームから落っこちそうになった女の子を助けたぼんくら大学生のキョヌくんが、その彼女とつきあううちに巻き込まれるトラブルの数々。コメディータッチのなかに、泣かせどころも押さえてあって、エピソードもいちいち気が利いている。よく練られた脚本と、テンポのいい演出、若い二人の俳優の好演によって、気持ちのいい映画に仕上がった。韓国映画は勢いがあるなあ、とあらためて。
▲韓国学生街食堂でトッポギとのりまき。


2003/03/07/Fri.
▲晴れ。午後から曇り、小雨も。
▲サンダー平山さん宅でポジの選定。一通り選び終わる。気が付くと夜。
▲猪瀬直樹『マガジン青春譜』(小学館)読了。猪瀬直樹の近代文学もの(『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』)はいずれも面白いが、『マガジン青春譜』はとくに、文学が商品として成立する市場を作った文芸誌の成立にスポットをあてている。本の流通、本を読める読者の数、印税制度の不備などがあいまって、明治までは文士は食えない稼業の典型だった。しかし、それがベストセラーで家が建つ時代へと変わっていく。菊池寛、川端康成、大宅壮一らの青春期を描いて、文壇が成立していく様がドラマチックに描かれる。脇のエピソードとして島田清次郎、賀川乙彦らのベストセラー、新潮社、改造社らの戦略についても書き込まれていて読み応えがある。
▲新宿でIさんと2軒。


2003/03/06/Thu.
▲晴れ。午後から曇り、小雨も。
▲村松友視『ある作家の日常』(河出書房新社)読了。著者をイメージさせる、元文芸編集者で今は作家となった「私」の現在の日常生活と、過去にあった出来事とが想念の中でクロスする短篇集。
▲なかでも「ジュークボックス」は読み応えがあった。「作家らしい調度品」としてジュークボックスを買った「私」は、その音量を持て余し、知り合いのスナックに預ける。そのジュークボックスが数年ぶりに返ってくる。そこから、かつて力を入れて書いた短篇小説の原稿を編集者になくされた事件、公募賞へ応募しようと年上の女性の部屋で原稿を書いていた頃の思い出がよみがえってくる。元編集者ゆえに、自分が「作家」らしくなっているのかどうかを自問る「私」……と書くと辛気くさそうだが、そのへんは熟練したプロの筆で、面白く読ませてくれる。個々のエピソードが光っているからか、登場人物の匂いが伝わってくるからか。ほかに「菩薩の首」という小品も心に残った。
『チーズプラザ』(メディアセレクト・3月25日発売)印刷入稿完了。近所の韓国料理店「梨花」で軽く打ち上げ。寝不足が続いていたので爆睡。
▲今回の特集は「ペットの撮り方」。スタート時点では手探りだったのだが、最終的にはかなりいいものになったような気がする。もちろん、読者が見て「つまんない」と思えばそれまでなんだけど。また、写真家の平間至さん、新美敬子さん、SHI-BOさん、ライターのカミゾノ☆サトコさん、イラストレーターの近藤恵子さんほか、取材にご協力いただいた方々から示唆を受けることも多く、個人的にも多くの収穫があった。ありがとうございました!……って編集後記みたいになっちゃったけど。まあ、そんな感じです。


2003/03/05/Wed.
▲晴れ。風は収まったが、寒い。
▲大したことはしていないのだが、一日があっという間に終わる。
『昭和の劇 映画脚本家笠原和夫』(太田出版)読了。読み終えるのが惜しい気持ちに。右は『昭和の天皇』から左は『実録・共産党』まで(いずれも未映画化)書いたシナリオライター笠原和夫のロングインタビューを作品順にまとめたもの。今日はその後半。笠原和夫のキャリアの中で、やくざ映画とともに注目すべき戦争映画のパートだ。天皇の戦争責任をめぐる発言は福井晴敏『終戦のローレライ』( 講談社)を連想させる。天皇崇拝の将校が天皇へ帰依するあまり、現実の天皇を超えて、あるべき天皇の姿に熱狂する。「2・26事件」にしろ、「特攻」を実行した軍部の連中にせよ、そこにあるのは天皇制を媒介とした狂気だ。で、あるからこそ天皇制反対、昭和天皇は戦後退位すべきだったとする笠原和夫の発言は説得力がある。思えば、『終戦のローレライ』はいま一つ腑に落ちないところがあったのだが、それは天皇抜きの終戦物語だったからだと気が付いた。笠原和夫がシナリオを書いた映画『大日本帝国』は左からは右寄り、右からは左寄りと批判されたいわく付きの作品。見てみたい。


2003/03/04/Tue.
▲晴れ。強風。寒い。
▲平間さんの原稿を書いてデザインに回す。そう、超タイトなスケジュールなのだ。
『チーズプラザ』(メディアセレクト・3月25日発売)の追い込みで読書どころではないのだが、一応、これで一通りの原稿は書いたので(と言い訳しつつ)、読みたくてうずうずしていた荒井晴彦、糸圭秀実両氏のインタビューによるぶ厚い『昭和の劇 映画脚本家笠原和夫』(太田出版)を読みはじめる。面白い!
▲『仁義なき戦い』4部作、『県警対組織暴力』などのやくざ映画、『二〇三高地』『大日本帝国』などの戦争映画で国家と権力、民衆と暴力をダイナミックに描いてきた脚本家へのロング・インタビュー。ちょうど高梨豊さんの『ライカな眼』(毎日コミュニケーションズ)の編集でブックデザイナーの鈴木一誌事務所に連夜うかがっていた時に、事務所で見本を見て、興奮したのだが、鈴木さんのブックデザインも冴えまくっている。内容のほうもインタビューの密度もさることながら、詳細な注釈がすごい。おそらく、そんなに部数は刷っていないと思うので、ピンと来た人はお早めに。松本賢吾さんに熱く勧められた笠原和夫の『破滅の美学』(幻冬舎アウトロー文庫)もすでに品切れ。いまどき、本はすぐに買わないとあっと言う間に手に入らなくなる。日本映画に興味がある人はもちろん、日本の現代史に興味がある人にも読み応えのある一冊。そして何より、話題にのぼる映画すべてが見たくなる。


2003/02/03/Mon.
▲雨。
▲写真家の平間至さんにインタビュー。『チーズプラザ』(メディアセレクト・3月25日発売)誌の特集と連動した写真家インタビューシリーズ第2回(1回目はハービー・山口さん)。取材をお願いした時に見本誌をお送りしてからご快諾いただいたのだが、平間さんから『チーズプラザ』について「カメラ雑誌にありがちなかたい感じじゃなく、明るいところがいいと思って取材を受けさせていただいた」とありがたい言葉をいただく。話の中心は平間さんのミーちゃんシリーズ(『捨て猫ミーちゃん』『ミーちゃんといっしょ』ともに河出書房新社)の話はもちろん、最新写真集の『よろしく!』(新風舎)の話などをうかがう。『捨て猫ミーちゃん』、『ミーちゃんといっしょ』はミーちゃんの可愛らしさはもちろんのこと、撮影のシチュエーションが事務所の机の上だったり、トイレの中だったり、リビングだったりと、ごく日常的な空間なのに、見事に絵になっていて、写真家の空間把握能力の凄さを感じさせる写真集。ひらたく言うと、同じ時間、同じ場所、同じ機材でもこういう写真は撮れない、という感じ。
▲同様のことは『よろしく!』にも言える。故郷塩竃の181人+9匹を撮った写真集なのだが、一枚一枚の写真が濃い。平間さん自身は「塩竃の人たちが個性的だから」と言っていたが、やはり写真家の腕前だとも思う。地域住民、普通の人たちを大量に撮るという試みをやっている写真家は過去に何人もいるけど、ぼくとしてはその中で最良と言っていいくらいに優れた写真ばかりだと思う。ぼくはこの手の普通の人たちもの、あまり面白いと思ったことがないんだけど、見れば見るほど想像力を刺激されて面白い。アカの他人の読者にとっては、普通の人たちというコンセプト自体に「カネを出してまで見たくない」という心理が働くと思うが、ことこの写真集については、きっとかなり楽しめると思う。マジでおすすめしておきます。
▲というわけで、写真集『MOTER DERIVE』や、90年代の『ROCKI'N ON JAPAN』『CUT』であこがれていた写真家に会うことができてミーハー的な喜びをかみしめつつ、インタビューとポートレート撮影を終了。掲載させていただくミーちゃんの写真がまた、実にかわいい。ちなみに、今日はミーちゃんは「お休み」。ご自宅から連れてくる時間がなかったそう。会えなかったのはちょっと残念。


2003/03/02/Sun.
▲晴れ。
▲犬猫のおもちゃを探して100円ショップ、大久保ドンキ・ホーテ。
▲あとは終日引きこもって遅れている原稿を仕上げる。


2003/03/01/Sat.
▲雨。
▲安原顯(ヤスケン)さんのお通夜とお葬式を手伝ってくださった方々に声を掛けての慰労会。場所は上野の西郷さんの下の聚楽台。お座敷もあるレトロ&カジュアルなファミレス。喪主まゆみさんのナイスアイディア。23人が出席してくださり、にぎやかな会に。幹事を務める側もだんだんいい加減になってきてしまって、カジュアルこのうえない飲み会になってしまった。故人をそれなりに偲びつつ、あとは、安原さんをきっかけに出会った人たちの懇親会という感じ。
▲多くの人が、安原さんの日記に実名で登場しているので、何となく知っていたけれど、会ったのはお通夜の席でだった……という奇妙な縁。また、安原さんの周りに集まった編集者たちのアウトサイダー気質というか、こだわりと反骨心とが同居しているような人たちが多く、人間観察的にも面白かった。そんな方々との主な話題は「それぞれの戦場」。ようするに、仕事の話なのだが、聞けば聞くほど、みなさん精神的にも肉体的にも過酷な現場で戦っていて、感心したり、身につまされたり。いい話をいろいろと聞けて刺激になった。これも安原さんのおかげ、ということであらためて合掌。
▲雨の中浅草石松へ流れ、電車のあるうち散会。


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