【アルカリ】0632
02/ 05/27(月)

『ホームヘルパーは見た!』
(速水喬子・宝島社文庫・600円+税)

 ホームヘルパー地獄巡りの行く先は?

 「家政婦は見た!」をもじったベタなタイトルもさることながら、女がジジイの首を絞めて入れ歯がぶっ飛んでいる表紙がいい。この本は、見た目通り、福祉に目覚めた心優しいホームヘルパーのハート・ウォーミングなノンフィクションでは「ない」。読めば読むほど、ホームヘルパーの仕事の理不尽さにムカっ腹が立ってくるような怒り(と笑い)の書である。

 著者は三十代前半の主婦。家事が得意で、お年寄りの世話をするのも苦にならないから、ホームヘルパーは天職かも、とヘルパー1級の資格を取得する。時は平成十二年。介護保険スタートの年で、ホームヘルパー不足が問題になっていた。

 意気揚々と現場に乗り込んだ著者は、そこで介護制度のでたらめさに唖然とする。
 介護保険の運用はいい加減で、とても要介護とは思えない老人がホームヘルパーをお手伝いさん扱いしていたり、老人の家族がヘルパーを使おうとしたりと厚かましい輩がわんさかいる。

 介護サービスの内容も、「家事援助」と「身体介護」「複合型」の3種類があり、ヘルパーの賃金は「身体介護」「複合型」「家事援助」の順。ところが、現場でヘルパーがふうふう言っているのは「家事援助」。生活全般のこまごまとしたことをやらされるからだ。しかし、一番お金は安い。これってなんだ? そう、例の「事件は会議室で起こってるんじゃない!」ってやつだ。現場を知らないお役所仕事の弊害が、ここにも起こっている。しかも、介護サービスは介護サービス提供事業者に委託されていて、そこでヘルパーがピンはねされる時給はも最大8割というすさまじさ。

 それでも、現場のホームヘルパーは福祉の仕事=人の役に立つ仕事と信じて働いていられるものだろうか? 少なくとも、本書の著者はプロのヘルパーとして、現状を「NO!」だと書く。

 介護されている老人たちも、一般にイメージされているような弱々しい人たちじゃない。身体の自由が利かなければ、それだけイライラも募るし、そのストレスを誰かにぶつけたくなるのは当然。そのはけ口がヘルパーに向かうことだってある。優しくして愛されればいいかというと、そこからセクハラ事件が発生したり……。いやはや、ホームヘルパーはタフでなければ生きていけない。

 著者は、しかし、すべての老人たちにうんざりしていたわけではない。「ボケたってラブリー&キュートな人々」という章では、著者の目から「こんなふうに歳を取りたい!」と思わせてくれた老人たちへのオマージュが捧げられている。

 本書は著者の処女作だが、テンポがよく歯切れのいい文章はユーモアが効いていて、老人介護という重くて暗いテーマにも関わらず読みやすい。世間の常識を身につけた「普通の人」が介護の現場に入ったら、どんな世界だったのか? ぜひご一読いただきたい。

オンライン書店bk『ホームヘルパーは見た!』

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