【アルカリ】0585
01/ 05/29(火)

『潜入 在日中国人の犯罪』
(富坂聡・文藝春秋・1429円+税)


 在日中国人犯罪者たちのアンダーワールド

 昨年秋に「週刊文春」誌上で集中連載された記事の単行本化である。

「潜入」というタイトルはものものしいが、著者は在日中国人犯罪に関わっている人間に取材し、日本人お断りのプライベートパーティーにまで、文字通り「潜入」している。テーマはズバリ、不良中国人たちが日本で起こしている犯罪の数々である。

 「第1章 在日中国人の棲む街」では新宿歌舞伎町の中国人世界を描く。

 もともと歌舞伎町は朝鮮・韓国人、台湾人、上海人、北京人、タイ人などのコミュニティーが形成されており、アジア系外国人のゲットーと化していたが、近年、中国大陸からの不法滞在者に犯罪者が増え、とみに治安が悪くなっているという。とりわけ、中国人コミュニティーの中での強盗、カネのトラブルから起こった刃傷沙汰などが目立つのだそうだ。

 日本の入国管理体制など、したたかな中国人犯罪者にとっては屁でもない。本来、終身刑を宣告されているような犯罪者が、中国裏社会のコネで密かに出獄、さらに堂々と日本に渡って商売をしているというから仰天だ。彼らの商売のパートナーとなっているのが日本の暴力団という構図も見える。

 いずれも、一般の日本人には縁のない話だと思われがちだが、じわじわと影響がある。一例を挙げれば、社会保障制度だ。彼らの起こした事件の後始末にはカネがかかる。密入国者が大怪我を負った場合に、当然、救急病院に運ばれることになるが、彼らに医療費を払うカネはない。むろん、保険も効かないから膨大な金額になる。国が何割か補償したとしても、病院経営にはダメージになる。病院が救急医療を切り捨てるということにでもなれば、一般人がそのとばっちりを受けることになる。

 ぼくたち日本人は島国根性ゆえか、鎖国が長かったからか、外国人に対するつきあいかたが下手だ。威圧的になるか、へりくだるか。いずれにせよ、極端にしか対応できないところがある。著者が指摘するのは、その「へりくだり」につけこむ悪いヤツがいるということだ。

 第二次大戦で中国へ侵攻したことについて、日本人が中国に対して持っている贖
罪意識が、在日中国人の犯罪に甘くなっている根本にあるのではないか。そのことが如実に現れているのが「第2章 中国残留孤児偽家族」だ。日本中が涙した、あの中国残留孤児たちのなかに、堂々とニセ者が混じっていた。しかも、中国の一族郎党を呼び寄せるという口実で、アカの他人の中国人を呼び寄せるという「ビジネス」が罷り通ったという。

「第3章 入国管理局VS.不法入国者」では、そのようなニセ残留孤児や、不良中国人と入国管理局の熾烈な攻防が描かれる。「第4章 結託する日中黒社会」は偽造パスポートの実際や、IT立国をめざす日本の脇の甘さにつけこんだ「ニセIT技術者」たちが大挙して入国している現実など、現在進行形の犯罪を暴く。

 驚くべきなのは、中国人犯罪者たちのしたたかさもさることながら、彼らに協力することを否としない日本人たちの存在である。ホームレスやフリーターなどを動員してパチンコ店の情報を入手したり、百貨店の社員を巻き込んでカードの信用情報を盗んだり、彼らの犯罪に日本人の協力は不可欠だ。そして、いいこづかいになるこれらの「協力」を断る日本人は「10人の2、3人しかいない」のだそうだ。これは二重の意味で情けない。一つは当人たちに犯罪に加担しているという意識が薄いこと、そしてもう一つは不良外国人に使われている下っ端でしかないという点だ。

 著者は中国への留学経験もあり、中国大陸への取材経験もある。知中派のジャーナリストゆえに、中国人犯罪者の跋扈に対してなすすべもなく、危機感もない日本に警鐘を鳴らす。

 犯罪者の急増は治安を乱すだけではなく、まっとうに暮らす中国人たちへの差別や、国民感情の悪化にもつながる。とにかく、本書を読むかぎり、日本人が外国人に対して取っている危機管理は非常に甘いとしかいいようがないだろう。そして、日本人がよく口にする「国際化」の意味についてあらためて考えさせられる。

オンライン書店bk『潜入 在日中国人の犯罪』

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