【アルカリ】0288号
99/ 08/11(水)

『女たちのジハード』
(篠田節子・集英社文庫・705円+税)

 闘い続ける女たちの物語

 今んトコのマイブームは篠田節子。とにかく小説が巧い!。ウロ覚えだが、この小説で直木賞を取っているはずである。宮部みゆきの『理由』を例にあげるまでもなく、直木賞受賞作がその作家のその時点での最良作とは限らないというのはわかっているが、「機が熟した」のが賞につながるというのはよくあることで、この『女たちのジハード』も、篠田節子の作家としての成熟と、時代がシンクロしたっていうことなんだろうな。

 自分が男だからかもしれないが「女たちの」というタイトルが冠されたモノには関心が湧かない。それどころか、胡散臭さを感じてパスしたいと思ってしまう。

 しかし、「女たちの」に「ジハード」と付けば、それはユーモアだ。ジハーのは湾岸戦争で有名になったイスラム教の、布教のための「聖戦」を意味するけれど、その言葉と女たちの人生が組み合わされると、それは一種の皮肉でもある。

 小説の内容は、業界中堅の損保会社のOLたちの生き方をオムニバスの組み合
わせで組み立てたものだ。印象としては、まア、柴門ふみの『女ともだち』と『お仕事です』か。『女たちのジハード』には、『女ともだち』のエッセンスをより大人の物語に昇華してみせた奥の深さがあると思った。

 そもそも『カノン』も中年の女教師の話で、ぼくには何の関わりもないストーリーだと思ったが、人間の生の根源に触れるような深い洞察があった。『女たちのジハード』もしかりで、この連作小説に登場する主人公は女たちではあるが、彼女たちとぼくがいる場所は決して離れていない。OLという身分を永遠のものとは考えられず、たえず、どこかに自分の居場所を確保しようと願いながら果たせない。その姿は、今の若い日本人なら誰だって共感しうるものではないか。

 つまりは、モラトリアム。

 そこから、どう、自分を見つけていくのか。その自分探しの物語を、センチメンタルにではなく、きわめて率直に描いたたのがこの小説なのだと思う。

 柴門ふみの『女ともだち』に登場する男女は、誰も彼もリアリティがあって、その生に対する真摯さに共感できたけど、時代が変わって『お仕事です』では、「それらしさ」ばかりが強調されるハリボテの登場人物たちの苦悩につきあわされるばかり。その変容は一つは時代の変化なのだろうが、一方では作家の姿勢が大きく変わったのだと思う。

 パルコブックセンターの名物企画「作家の本棚」で、冒険小説、ミステリー評論家の北上次郎の本棚が再現されていた。そこに燦然と『女たちのジハード』が輝いていたのは、正直なところ意外だった。しかし、読んでみると、小説の読み巧手を唸らせたのも納得だ。

 この小説に描かれているジハードは、女たちのものだけでなく、男たちにとっても共感できるものらしい。

オンライン書店bk『女たちのジハード』

Copyright (C) 1999-2004 Takazawa Kenji.All right reserved.

top aboutweblogbookcinemamail

動画