【アルカリ】0644
03/12/11

映画『夜を賭けて』
(2002年・日本 監督:金守珍 脚本:丸山昇一

 エネルギー溢れる見応えのある群像ドラマ

  久しぶりに映画を見に行った。

『夜を賭けて』を選んだのは、知人に誘われてたまたま見に行った梁石日のトークショーでこの映画のことを知り、飛び入りゲストで登場した金守珍監督の度はずれた暴走ぶりが印象的だったからだ。

 金守珍は1954年生まれ。蜷川スタジオ、状況劇場を経て劇団「新宿梁山泊」を旗揚げ。以来、役者として活躍する一方で、金盾進とう名前で演出を手がけてきた。『夜を賭けて』が第一回監督作品となる。脚本は丸山昇一。松田優作とのコンビで『殺人遊戯』、『野獣死すべし』、『俺っちのウェディング』などのコミカルな作品などを幅広く手がけている。

 昭和33年。ほったらかしにされていた大阪の兵器工場跡に、毎夜、在日韓国・朝鮮人部落の面々が鉄クズを盗みに入っていた。
 警察との攻防、同じ部落内でのグループ間の対立、さらには、主人公、金義夫(山本太郎)と朝鮮戦争で孤児になった初子(ユー・ヒョンギョン)との恋、部落を出てヤクザになって帰ってきたワル、健一(山田純大)との対決などがエネルギッシュに描かれる。こんなにケンカばっかりしている映画というのも久しぶりだ。さらに、当時「理想の楽園」とうたわれ、多くの在日朝鮮・韓国人が北朝鮮に移り住んだ「帰国運動」の余波もさりげなく描かれる。

 韓国に大規模なオープンセットを組み、バラックの部落を再現、韓国映画界のスタッフを起用し、技術的にも優れた作品である。昨今、勢いのいい韓国映画のスタッフのパワーを得て、これまでにないスケールの映画になった。

 出演者たちの演技もすばらしい。監督が舞台演出家だけあって、俳優たちのアンサンブルが楽しく、登場人物一人ひとりに光を当てようとしている姿勢が伝わってくる。主演を務めている山本太郎には『バトルロワイヤル』、『光の雨』以来注目しているのだが、この映画でも骨太なところを見せている。いまどき、こういう線の太い男優は珍しい。

 細部を見ていくと、納得のいかないところもある。もっとも大きな瑕瑾は奥田瑛二扮する日本人刑事だ。「100万人に一人はいい日本人もいる」という義夫の言葉に呼応するように登場する、在日朝鮮・韓国人に理解を示す刑事なのだが、いくらなんでも……と思うくらいに現実離れしたかっこよさで、浮いている。どうせ日本人を登場させるなら、終戦後13年、まだまだ貧しかった頃の、こすっからくてたくましい日本人を出して欲しかった。在日を差別する構造の末端には、社会的階層の下同士こそがいがみ合うという『ドゥ・ザ・ライト・シング』(スパイク・リー)的状況があったはずだと思うからだ。

 物語を部落と工場跡という舞台に限定したことで、舞台演出家でもある監督の初監督作品としては異例なほどの成功を見せたとは思うが、やや図式的な部分が気になってしまった。しかし、全体をみなぎっているパワーに、久しぶりに骨太の映画を見たという満足感を得られたのは確かだ。秀作である。
 
 原作は終戦直後の大阪であった実話がもとになっている。部落の連中が警察から「アパッチ」と呼ばれている段で、ああ、これは開高健 の『日本三文オペラ』(新潮文庫)と同じ題材なんだと、遅ればせながら気付いた。


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