『グレイヴディッガー』
(高野和明・講談社・1700円+税)
『13階段』の著者がさらに腕を上げた
巻き込まれ型サスペンスの秀作
『13階段』の著者がさらに腕を上げた。巻き込まれ型サスペンスの秀作
この国では、ひとたび権力を手に入れれば、多少の犯罪を犯してもシラを切り続ければやりすごせるようだ。
一方で、小さな犯罪を犯したばかりに社会から阻害され、生きるためにまた犯罪を犯すという悪循環に陥っている市井の小悪党もいる。権力に近い巨悪と、社会の隅っこで小ずるい犯罪を犯す男。出会うはずのない二人が接点を持った時、墓場から死者が甦った……。
悪党面の男がいる。少年時代から恐喝、詐欺を繰り返し、32歳の今、若々しさを失った狡猾な犯罪者の顔にできあがってしまった。その男、八神が一念発起、骨髄移植ドナーになり病気に苦しんでいる人を救おうとする。そして、ついにその手術を目前に控えていた。
入院前に、安全上の理由からホストの島中と交換していた自室に帰ってみると、両手両足の親指を縛られ、沸騰した湯船に沈んでいる島中の死体が浮いていた。
うろたえる八神。そこへ、正体不明の男たちが乗り込んでくる。八神は反射的に逃げ出し、赤羽のアパートから、一路、大田区六郷の入院先をめざす。東京の北の外れから南の外れまで、水上バス、電車、タクシー、モノレールを乗り継ぎ、追っ手をまき、警察の捜査網を逃れ、小悪党はひたすら逃げまくる。
捜査を開始した警察は、島中以外に同時多発的に殺人事件が起こっていることに困惑すいていた。しかも、その殺し方は中世魔女狩りの時代に、イングランドで異端審問官たちを殺していった「甦った死者=グレイヴディッガー」の手口そのままだったからだ。犯人は現代の異端審問官を手に掛けようとしているのか。被害者に共通しているのは骨髄移植ドナーだという一点だけだった……。
現代医療の最先端である骨髄移植から、中世の魔女狩り、公安のエス(スパイ)工作、カルト教団など、多彩なモティーフを盛り込み、気を逸らせない。スピーディーな展開もさることながら、主人公八神の憎めない小悪党ぶりと、ユーモアのセンスが緊迫感のある物語に緩急をつける役割を果たしていて、効果的である。
読みはじめたら止まらない、そして、ラストシーンではしみじみとした感動が味わえる。著者は昨年、第47回江戸川乱歩賞受賞作『13階段』が注目を浴びた俊英。受賞作の成功がフロックではなかったことを本作で証明している。お見事!
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