【アルカリ】0616
02/02/08(水)

『永遠の復讐』
(松本賢吾・双葉社・1900円+税)

 「夫が誰か調べて欲しい」。美女から持ちかけられた危険な依頼

 原島恭介は元警視庁刑事。紆余曲折ののち、いまは横浜鶴見の寺で墓堀り人兼探偵をやっている。年は食っても、女好き、事件好きは変わらず、危険な事件に巻き込まれるたび、身体を張って闘ってきた。

 いつものように鶴見駅東口の飲み屋「さちこ」に顔を出した原島に、黒いシルクのパンツスーツを着た美人が声を掛けてきた。女の名は永井明美。同棲していた内縁の夫が中国人二人組に白昼、刺殺されたという。犯人はまだつかまっていない。

 しかし明美は犯人を捜してくれと原島に依頼したのではなかった。依頼内容は「夫が誰か調べて欲しい」という奇妙なものだった。明美は5年間いっしょに暮らしていた男の正体を知らなかったというのだ。男は偽名を名乗り、どこからか数億の大金を引っ張って、明美に与えていたという。

 明美の依頼の真意はどこにあるのか? 死んだ男は何者なのか? 明美に振り回されないように用心していたはずの原島は、肝心なところで足をすくわれ、思わぬ事態に直面する。

 墓堀りを本職とする異色探偵・原島シリーズの第4作。これまでに『墓碑銘に接吻を』『エンジェル・ダスト』『慚愧の淵に眠れ』の3作がある。

 『永遠の復讐』も、いつも通り、主人公の原島が魅力的だ。くたびれかけた中年探偵というのはハードボイルドの常套だが、原島は上半身も下半身も元気なところがいい。そして、おれは頭脳派ではないと推理は棚上げにして、身体ごと事件にぶつかっていき解決の糸口をつかむ。利口な立ち回り方はできない。その不器用さが魅力なのだ。

 男もいいが、女もいい。永井明美は元ソープ嬢。つまらないヒモとくっついていたが、四国を旅した折りに素性の知れない男を「拾う」。その男は、明美に5年間、平穏で温かいぬくもりのある暮らしを与えてくれた。しかし、突然、男は死んでしまう。明美は男を殺した男を探したいのではない。犯人を捕まえたところで男は帰ってこない。自分の人生で男の存在はまさしく僥倖だったのだ。明美にとって男の死は自分の中の一部が死んだことと同じだった。そんな二人の絆を原島は明美とともに行動するうちに知る。

 原島は明美の依頼に裏側があることを直感し、用心深く振る舞いつつも、やがて明美に惹かれていく。原島は明美に同じ匂いを嗅いだからだ。しかし、原島は明美にそのことを話さない。男と女の出会いとすれ違いが、コクを与えている。

 物語は後半、急転し、強力な「敵」と対峙する。たたみかける展開は息もつかせない。そして、ラスト、爽やかな後味を残して物語は終わる。原島にはまだまだがんばってほしい。次回作が今から待ち遠しい。


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