【アルカリ】0320
99/ 10/07(木)

『もっと知りたいラオス』
(綾部恒雄、石井米雄編・弘文堂・2500円:税)

 ラオスのことをもっと知りたい人って
 日本に何人くらいいるんだろう

 小学生や中学生のころ、学校行事の旅行「旅のしおり」作りが苦痛で仕方がなかった。観光名所の歴史を調べて簡単なガイドブックを作るというやつだ。確か「事前学習」というような名前が付いた作業だったと思う。クラスで班に分けられ、地域別に名所を調べさせられた覚えがある。これが本当に苦痛だった。

 だって、一度も行ったことがない場所について、故事来歴や美しさについて調べて書いたところでピンと来ないし、何より、これから行く未知の場所の鮮度を落としそうでイヤだった。

 長じて旅行をするようになってもその場所のことを細かく調べていくことはしていない。想像力が乏しいせいか、何事も実際に見てみないことにはそのありがたみがピンと来ないので、とりあえず行ってみよう、というのがいつものスタイルだ。

 何もわからずにウロウロと歩き回って帰ってから、調べるのは好きだ。

 旅行をしているとさまざまな疑問が胸を去来して、たいていは忘れてしまうけど、本を読むことで思いがけず答えに出くわすこともある。実際にその場所に行ったことがあると、フィクションでもノンフィクションでも親近感と好奇心をもって楽しむことが出来る。ボクは事後学習の方が好きらしい。

 過日、ラオスに旅行する機会があり、いまはラオスについて書かれた本や、ラオスを舞台にした小説を探して読みたいと思っている。旅行の前にたまたま読んでいたラオス関連の本を読み返すのも楽しみだ。

 本書『もっと知りたいラオス』は、旅行に行く前からその存在は知っていたが、あえて読んでいなかった。読んでみると、ラオスでの見聞が鮮やかに蘇ってきた。「そうだったのか!」と納得したり、旅しただけではわからなかったラオスの姿が改めて発見できる。

 学者たちの文章なので小難しさがうっとうしい部分はあるけれど、執筆者によっては実に生き生きとラオスの文化を描写しているし、政治や歴史、教育などの硬いテーマから音楽芸能の分野まで幅広い視野を持っているので、ラオスの一通りがわかるのはありがたい。

 ボクが面白いと思ったのはラオスの神話だ。これは、向こうでお祭りにでも出くわさないとピンと来ない内容で、ラオスは仏教国家だが精霊信仰もあって、神話も残されている。

 まず、『プーニュー・ニャーニュー』ってのがあって、これはニューおじいさん、ニューおばあさん、という意味。神様が地上に使わした地球創生の異形の人である。人間のためにライオンを退治したり、大きな気を切り倒して太陽を蘇らせたり、と人間の守護神的な人たちで、プーニュー・ニャーニューの仮面がお祭りに登場する。

 人類のはじまりについての伝承も面白かった。

 ある日、神様がひょうたんの中から声がするのを聞きとがめる。そして、火にくべた熱い棒でひょうたんに穴を開けると、三日三晩に渡って人が溢れ出してきたという。最初に飛び出してきた人たちは焼けた穴を通ってきたから肌が黒くなった。次に出てきた人たちもちょっと浅黒い。で、最後に出てきた人はもう熱が冷めていたので肌が白い。この三段階は、それぞれ中高地に住むラオ人、低地に住むラオ人、高地に住むラオ人で、彼らの肌の黒さ具合が説明づけられている。

 にしてもひょうたんから出て来るというのは何とも可愛らしい。ひょうたんにはそんなにたくさんの人間は入りそうにないから、いまでもラオスは人口が少ないのかも。プーニュー・ニャーニューという言葉の響きも胸キュン(死語)ものだね!

 また、仏教と社会主義の関係や、社会主義化が結局のところゆるやかな統制に静かに移行していった顛末など、人口が少なく、平等に貧しい国ならではの非エントロピー的な経済活動の推移など興味深い文章が続く。

 実のところ、ラオスについて書かれた本はごく少ない。ってゆーか、ほとんどコレ一冊というのが現状だろう。数年前には『地球の歩き方 フロンティア』というガイドブックがあったが、今は単独のガイドブックすらない。だからこそ、余計に知りたいと思ってしまうのだけれど。


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