【アルカリ】0283号
99/08/04(水)

『アジアン・ムービー・ジャンキーズ』
(植地穀、木内玄、ギンディ小林・水声社・1500円+消費税)

 新世代のボンクラ魂が炸裂!

 男子供だけがグっとくるジャンルというのがあるんじゃないかと思う。

 いわゆる女子供というくくりっていうのは、日本では「子供っぽい」とか「未成熟」とか「役立たず」とかいうロクでもない集合体ということになっていて、翻ってみれば、文化・芸術全般は日本では女子供のものであるということになる。

 文学でも美術でも音楽でも、成人する前の男女が夢中になって打ち込んだり、主婦になった女たちがカルチャーセンターで趣味にするくらいは社会的にオッケーだけど、そういうことを職業に選んだり、いい歳になって夢中になったりすると社会的にはなんとも具合が悪いことが多い。男は実業、お金儲けか国作りか、利益の上がる結果を出してこそ、なのである。

 まア、そういう一種の男に対するプレッシャーが、だめ連とか引きこもりとか、プータローとか、明らかに元気のない男たちを生み出しているような気がしてるんだが、それは置いておいて。

 本題に戻ると、男子供とは何か。具体的に言えば、女抜きの、モテない男たちの男子校的趣味の世界なんですね。

 昔から、クルマ・鉄道・バイク・カメラ・格闘技なんていうのはもっぱら男の世界であって、女子はアンタッチャブルの世界だった。そして、これらの趣味にのめり込んだ奴らというのは、その時に一つの選択をしなければならない。

 「趣味かモテか」だ。

 クルマとかバイクはまだいい。女子の趣味としても違和感がなくなってるし、男性的な趣味としてはモテの一要素にもなるだろう。カメラはちょっと怪しいけど(笑)、まあ、超望遠でアイドルのパンチラを狙ったりすることに血道をあげず、アート系に振ればこちらもまあ、オッケー。格闘技は、藤原紀香を代表として女性ファンも増えている。格闘技ネタで盛り上がっているカップルもたくさんいるだろう。鉄道だけは、あいかわらず「女子禁制」の趣があるが(笑)。

 いかん。これでは男子校的「モテない」男たちの趣味が女子供の世界に浸食
されていってしまう。別にいかん、てことはないか(笑)。

 でも、『アジアン・ムービー・ジャンキーズ』を読むと、ここにまだしっかりと男子供の世界が雄叫びをあげていることが認識できるはずだ。

 その男子供の世界とは、ジャッキー・チェンであり、ホイ三兄弟の『Mr.BOO』シリーズであり、サモハン・キンポー(声:水島裕允)のデブゴンシリーズであり、数々のクズカンフー映画(韓国製も含む)である。

 このへんのしょうもない世界に最初に光を当てたのは、チャールズ・ブロンソンをリスペクトするみうらじゅんや、東映映画の「ボンクラ魂」を世に問うた杉作J太郎で、その後『映画秘宝』を経て、世代はくだり、本書『アジアン・ムービー・ジャンキーズ』は二十代の男たちがもっぱら吹き替えで見た香港映画群について熱く語り下ろしている。

 本書の内容はまさにマニアック! キョンシー映画や、韓国製カンフー映画、武田鉄矢の燃えよカンフーというテレビ特番、ジャッキー映画総めくり、ジミー・ウォングや、アンソニー・ウォンといった演技的にも私生活的にもネタが尽きない人たちの無責任なレビューなど、読みどころ満載。この種の本はネタが命なんだけど、分厚い束にネタがぎっしりとつまっていてお徳感がある。さらに、誤植のオンパレードもワザと? とチラっと思ってしまうというオイシイつくりの本になっている。誤植の一例を挙げれば武田鉄矢がずーっと鉄也として記載されていて、途中から鉄矢になるという(笑)。ま、誤植については人のことは言えないんですけどね!

 しかし、まア、この本を最初から最後までしゃぶりつくすように読んで楽しめるのはまさにボンクラ魂を持った男たちだけ。小中校とその輝ける十代の大切な時間を女子と戯れることもなく、スポーツに打ち込むわけでもなく、勉学に励むこともなく、ただひたすらテレビで放映される映画をエアチェックしていたモテなくてダメな男たちに違いない。

 また、この本は「香港映画の魅力は吹き替えにあり!」と一般的映画ファンの神経を逆撫でするような主張を随所に展開。たとえば、サモハン・キンポーという記述にはすべて(声・水島裕允)と太ゴチで入るという具合である。その字ズラを見るだけで笑える。というか、ニヤニヤしてしまうおれって一体……。

 とまあ、わかる人はわかるけど、わかることをあまり人には知られたくないという世界。それが男子供の世界である。とにかく、大の大人の社会生活には何のトクにもならないことばかりが詰まった本であり「人生のすべてはジャッキー映画から学んだ」とてらいなく言える新世代ボンクラ男たちの金字塔である。

オンライン書店bk『アジアン・ムービー・ジャンキーズ』

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