【アルカリ】0251号
99/06/18(金)

『もうひとつの青春 同性愛者たち』
(井田真木子・文春文庫・543円+税)

 ゲイの生活と意見をマジメに描いた力作

 『プロレス少女伝説』(文春文庫)という傑作ノンフィクションがある。神取忍と長与千種の二人を軸に、女子プロレス界の伝統と変革を描いたルポだ。少女たちがあこがれる女子プロレスの世界を実に愛情深く描いたすごい本だった。本の中に描かれた神取忍とジャッキー佐藤の試合は凄い迫力で、女子プロレスに興味のない俺でも興奮した。

 描く対象への愛が、読者をその気にさせる。そういう書き手なのだ。同時にテーマの立て方と構成力いはかなり理屈っぽいところもある。骨太さかつ柔軟。強いレスラーみたいなライターである。

 その人が、本書の著者、井田真木子。

 女子プロレスの世界を描いても、レズの話は書かなかった井田真木子は、性にナイーブな人なんだろうなと想像していた。およそ下世話が似合わない清潔な印象の書き手なのではないかと。

 ところが本書のテーマはゲイである。

 日本でほとんどはじめてのゲイの団体「アカー」が、都立青年の家から宿泊拒否を受けた。そこで、彼らは都と青年の家を相手取って裁判を起こす。
 その報道をテレビで見た著者は、ブラウン管に映った青年の普通さに強い関心を持つ。いわゆるオカマやムキムキのマッチョではなく、いわゆるゲイのイメージとはちょっと違う、ごくふつうの外見の20代の青年たちだった。彼らがカミングアウトして裁判を起こしているということに驚きを感じたのだ。
 早速アカーとコンタクトを取った著者は、裁判の行方と、「アカー」の中心メンバーである7人の男たちをルポしはじめる。

 著者の筆が冴えるのは、例えば彼らの屈折した気持ちが仲間を得たことでとぎほぐされていく一瞬を描くときである。
 そして、彼ら一人ひとりの性と人間性を尊厳を持って描こうとするその姿勢
は誠実だ。ゲイに感情移入を思いっきりしつつ、でも、私は異性愛者なのよという一線でルポを書いていく姿勢は、時にひどく硬直しているように見えるけれど、彼女がもともと持っている謙虚さがその距離の取り方を好ましいものにしている。

 テーマはゲイ。

 書き手は自身が同性愛者か異性愛者かを自覚することなしには取材もできないし、原稿も書けない。
 そう考えると、著者の「硬さ」も理解できる。率直な実感(理解できない)を知性で補完(どう考えれば彼らを理解し、受け入れることが出来るか)しながら描いたのがこの本なのだ。ほかの著作と同様に井田真木子の粘り強い取り組みに驚嘆させられる。

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