『無敵のハンディキャップ』
(北島行徳・文春文庫・514円+税)
障害者プロレスはいかにして生まれたか
障害者がプロレスやるってはじめて聞いたときには、悪い冗談だなと思った。プロレスなんかやって、障害が進んだらどうするのと思うし、それって映画『フリークス』の見世物小屋みたいじゃん……うーん、おもしろそうだ、見たい。
本書は、障害者プロレス団体ドッグレッグスを率いる健常者が書いた、障害者プロレスのドキュメントである。
すごく面白かった。
結局、気にはなっていた障害者プロレスも、プロレス好きってわけじゃないからその後のことは知らないけど、この本を読むと、やっぱりすごく見てみたくなった。ただ、イヤーな気分にもなりそうだけど、その後味の悪さこそ、代表者である著者が狙ったものであるらしい。よーするに、障害者をちゃんと見ろ! というメッセージをすごく強烈なやり方で、挑発的に表現しているのだ。
もともとドッグレッグスは障害者と健常者が集うボランティア団体だった。著者は、ボランティア業界のぬるま湯的な「障害者も健常者も変わらない、同じ人間だよね!」的、誰も反論できないタテマエだけど、現実的にはそれって世の中の現実から目を背けてるだけじゃねーか! というような部分にイヤ気がさして、慎太郎という障害者とその他何人かで新ボランティア団体を立ちあげる。
ボランティア団体というのは、健常者が障害者の介助をして、どこかに遊びに行ったり、勉強会をしたり、という清く正しい集まりだが、実際にはいろいろとドロドロしているみたいだ。
障害者にも金や女に汚い奴がいる!
って著者は書いていて、その見本のような? レスラー浪貝という人も出てくる。障害者像というものが、健常者社会の中で福祉という見えない箱に入れられて、イメージが固定されてしまっているという部分はあるだろう。
でも、人間なんだから、酒飲みの女好きっていう障害者がいて当然だし、プ
ロレスもやりたければ、バンドだってやりたいだろうし、そこで彼らがやりた
いと思うものが、健常者の社会にどうぶつけられていくべきなのか。
著者の問題意識はそこらへんにあって、障害者プロレスというムチャな発想が出てきたんだと思う。
このルポの面白さは、彼ら障害者たちが実に生き生きと描かれていることだ。就職して結婚して、というマトモな道を歩みたいと願っている慎太郎はベビーフェース、目立ちたがり屋で寸借詐欺まがいのことをして夜の街を飲み歩く浪貝がヒール、そして、障害者同士の結婚という冒険を自力で成し遂げているゴッドファーザーこと藤田、健常者と結婚した女装趣味の障害者大賀などなど、個性的でユニークな面々が鮮やかに描かれている。
また、障害者プロレスという存在が、巻き起こしていった問題にも注目したい。冒頭に挙げたような、障害者プロレスの「悪趣味」に拒絶反応を起こす人たち。またはまったく無視しようとする人たち。それから、障害者は障害者らしくしてろ、という無言のプレッシャー。そして、やはり、貧しく切ない障害者の仕事や労働賃金のこと……。
この本を書いた著者は、ドグレッグスのリングに立ち、自らも障害者と戦うレスラーにもなった。そういう著者のインサイドからのレポートは、生々しく熱い。そして、プロレスの本質がそうであるように、戦うことを見せるというエンターテインメント性にあふれている。おすすめだ。
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