【アルカリ】0226号
99/05/13(木)

『スプートニクの恋人』
(村上春樹・講談社・1600円+税)

 同時代ナンバーワン作家の凡作

 さて。スプートニク、である。人工衛星であるから、まあ、よくあるすれ違い、平行線の話だろうとは思ったが、本当にそのまま。村上春樹らしいのはホラー風味をあるところか。
 そう。村上春樹の小説は常に死に彩られている。
 では、この小説はどうか。

 またかよ、とつぶやきたくなるような、語り手の男は、例によって傍観者気取り。その眺める対象は、少々情緒不安定気味の作家志望すみれ。語り手は彼女のことを好いているが、彼女にその気はない。しかし、お互いのことを必要とし、安定した関係を築いている。
 ところが、すみれはある年上の女性に恋をする。例によって、金持ちでゴージャスな女ね。
 そして、すみれは、消えてしまう。
 さて。
 そのあとは、ご自分で小説をお読み下さい。しかし、賢明な村上春樹の読者なら、その後の結末を予測できるはずだ。

 問題は、この小説に新鮮さがまるで感じられないことだ。あたかも、村上春樹自身がセルフパロディーを演じたかのような、痛々しい出来の小説になっている。

 いったい、なんでこんな小説を書いたんだろう。そして、なんだっておれはこんな小説を最後まで読んだのか。そんな問いが浮かぶ。

 村上春樹の書き手としての巧妙さが突出していることは間違いない。こんな退屈な小説を一気に読ませてしまう。その巧さ。
 しかし、書きたい、という気合いがまるで感じられない。だって、今までの村上春樹の小説の二番煎じ、三番煎じですよ。いったい、どうなっておるのか、と憤ってみたりして。

 いずれにせよ、スプートニクである。人間は生き続け、人工衛星は死んだライカ犬を乗せてぐるぐると地球の周りを回り続けるのだ。

 しかし、小説を書いている女ほど、困った存在もないですね。大学が文学部
だったので、そのころを思い出しながら読みました。


オンライン書店bk『スプートニクの恋人』

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