【アルカリ】0212号
99/04/19(月)

『ヴァイブレータ』
(赤坂真理・講談社・1280円+税)

 直球勝負!

 1文字あたりの単価が高い。それが純文学である。したがって、その一文字1文字の価値をどう評価するかが、文学作品を楽しめるかどうかの分かれ目になる。つまり、一般の実用的な本が、その情報量を商品の価値としているのに対し、文学作品には情報量という商品価値ではなく、そこに書かれている言葉の芸がどれだけ優れているかという価値である。

 『ヴァイブレータ』は直球だ。アタマのなかでいろんなヤツの声がする31歳のルポライター女性が、コンビニで見かけた男のトラックに乗って、新潟まで、そして、ふたたび東京へ。それだけの話。しかし、一瞬も気が抜けるページがなく、ちょっとアタマのおかしい女の脳味噌のなかを覗いているみたいで面白い。描写のグロテスクさが、切ないような悲しいような感情を呼び起こす。

 分析的に言ってしまえば、30代前半のキャリアウーマンの偏執的な暴走の果ての救いと癒しってなもんで、いまの日本に生きているとこういうことって、わりとフツーにあるような気がするよなアと思う。
 精神的に問題を抱えている人が、異常にがんばっちゃう姿って、ああ、なんかわかるよなーと思うし。がんばって、自分を責めて、もっとがんばって、もっともっと、で、突然バタン。

 中学生が切れるのとは別のベクトルで、切れる、というか倒れてしまうというか。

 そういうことって、なんか、わかるなあ、と思う。だからって、そんなやつばっかりいたら大変で、文学というのはあくまでお話しですから。お話しだから面白いし、自分なりに受けとめることができるのだ。


オンライン書店bk『ヴァイブレータ』

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